国立西洋美術館 ~写本 いとも優雅なる中世の宇宙~
6月11日から始まっております、国立西洋美術館の内藤コレクション展、
「写本 いとも優雅なる中世の宇宙」へ
待ち構えていたわけではぜんぜんないけど、思い立ったのがちょうど初日で、行ってきました。
内藤コレクションは、筑波大学・茨城県立医療大学名誉教授の内藤裕史先生が、数十年かけて収集された中世写本のコレクションを、一括で国立西洋美術館に寄贈されたものだそうです。
その後も、内藤先生のご友人の長沼昭夫氏からの寄贈も含めたものが収蔵品となっているとのこと。
このコレクションは最初、常設展示室に続く版画素描展示室という、こじんまりとした場所で、2019年から2020年度に3回に渡って公開されていて、私も一度行ってきました。
今回の展示はあの小さな展示室ではなく、大々的な展示です。
国内の大学図書館の所蔵品も加えた150点が展示されているということ。
写本は印刷技術も紙もない時代に、神の教えを伝えるために、膨大な時間と労力をかけて、修道士たちの手で制作されたのが始まりです。
書かれたのは羊や子牛などの動物の皮をのばした羊皮紙。
アイルランドやスコットランドなどで制作されたケルトの三大写本(7世紀~9世紀)が有名ですが、
内藤コレクションは、13世紀から16世紀のイングランド、フランス、ドイツ、イタリア、スペインなどのものを見ることができます。
展示は、聖書、詩篇(旧約聖書のなかの1巻で、神を讃えた150の編の詩からなる)、時祷書など、
写本の種類や特徴など分けて解説されていました。
ここで全部解説するのは無理なので
個人的に好きだったものなど、ほんの数点ですがご紹介しようと思います。
聖書の零葉です。
零葉とは、本として綴じられたものをはずして
鑑賞用に1枚にしたものだそうです。
ラテン語の文章にはカンマやピリオドがなくて、
文頭を大文字で始めるという決まりもなかったので
文の初めの文字を装飾することで、区切りをわかりやすくしたのだといいます。
余白の装飾は、シンプルですね。
ちょっと見にくいですが、大文字のまわりにくるくるした装飾があります。これはフィリグリーといって、以前書いたものを記事にしたことがありました。
書見台を前に歌っているのがフランチェスコ会の修道士たちということで(よく見ると腰ひもをつけていることでもわかる)、
フランチェスコ会のために制作されたものだそうです。
くるくる波打つような葉っぱの装飾は、写本でよく使われるアカンサスの葉。
よく見ると先っちょに修道士の顔がついてたりします(画面真中の左のほう)。
そして気づいてしまいました・・・
絵の右にあるAの大文字の中に顔が描かれている!
写本って、よく見るとときどき面白いことが描いてあるみたいです。
書いている写字生の性格もわかることがあるそうで、
ただきっちり写しているだけでなく、そういうところも面白いなと思うのです。
今回の展示のなかで一番好きだったと言っていいかも、と思ったのが、これ。
フェラーラを統治していたエステ家の侯爵レオネッロ(リオネッロ)が注文した聖務日課書です。装飾が繊細でとても美しいです。
聖務日課書とは、聖務日課(時間割にそって行う祈り)の際に朗読するテキストを収めた書のことだそう。
写本は聖職者のために作成されるものでしたが、
のちに一般の人にも普及していき、とくに貴族などが豪華なものを注文するようになりました。
ミサの聖歌の楽譜なのですが、天使たちが可愛い。
最後は、時祷書の1ページ。
時祷書は、一般のキリスト教信者のために、
祈祷文や聖歌などを編集して、内容に合わせた挿絵をつけたもので、
信仰や礼拝の手引きとしたものだそうです。
教会で聖職者が使用するものとは違い、サイズも小さくなっています。
有名なものでは、「べリー公のいとも美しき時祷書」があります。
これは以前、NHKでも特集番組がありました。
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中世装飾写本がこんなに大々的に展示されることは、なかなかない機会なので、興味があって上野まで行ける方は、ぜひ見にいっていただきたいです。
8月25日まで。途中で一部展示替えがあるようです。
書くこと、描くこと、撮ることで表現し続けたいと思います。サポートいただけましたなら、自分を豊かにしてさらに循環させていけるよう、大切に使わせていただきます。