
2003年ソウル*イラク戦争の緊張とお菓子リュック
2003年3月
アメリカ主導のイラク武力介入が始まった。この日の朝のニュース。Bシュの演説。演技丸出しで獲物を狙う目に見えた。
あれはいただけないね、何がどうなるか分からないね。同居人あさひちゃんと相談して、今日のうち日本大使館へ在留届を出しに行こうとなった。これをしておくと緊急時の連絡や、いざ出国避難となった際のリストに載せてもらえる。らしい。行方不明の場合は探してもらえる。らしい。
あくまでも「らしい」なので、100%ではないが子連れで来ちゃった身だ。出来ることは全部しておかないと。
日本大使館は、アメリカ大使館の裏手にある。米大使館前には大きなトラック3台が連なって入り口を塞いでいた。警官か軍兵もかなりの人数だ。街中のこんな重装備、何列にも重なって立っているのが不気味だった。
映画のロケみたいだけど違うのだよな……ドキュメントやな。ため息。
私たちは大使館がくれた『安全マニュアル』冊子を注意深く読みこんだ。
なるほど。現金ある程度準備しておいた方がいいのか。ウォン(韓国紙幣)と米ドル、日本円もかな。財布足らないポーチ探さないと。
それから非常袋の準備ね。懐中電灯、電池、水ペットボトル、日持ちする食べ物。このあたりは日本の防災用リュックと同じだ、スムーズに頭が働く。
しかし【空港、港が閉鎖された場合】頁からは重たい。私たちの声のトーンも変化し、そのうちヒソヒソ話みたい小声になる。
「そうか……」
「こやって読むと怖いよね」
「文字読んでも想像出来ない」
「でもさ大使も、助ける優先順番あるよね。公務員、駐在員その家族でしょー、国地方自治体から派遣されてる人らでしょー、そうそう大学講師とか研究者とか……」
「地区ごとだとしても、このあたりは最後か」
「だよね……個人だし(勝手に来てる組)」
「まさか、忘れ去られ」
と、そこまでヒソヒソ声だったのに
「じゃあもう私たちは自力で逃げますかっ!」
突然あさひちゃんがキッパリ言う。
「お、そうだね。そん時は逃げよう。ひとまず山に向かうか」
漠然と山に逃げ込む映像を思い浮かべたが、私たちは同時に顔をぷるぷる
ダメだ、三人とも虫系苦手女子。家に小さいのが出てきてもヤイヤイ騒いでるのだから。
そこからは投げやり安全マニュアルトーク。
中古車でも買うかとなり
いくらするのとなり
うわあ高いねとなり
お金ないやんかと笑い
ロトシックス(宝くじ)買いに行こか
現実逃避して、いったん夢をみることにした。
それでも翌日ちゃんと各自避難リュックを準備。私はメロンのお菓子中心に。あさひちゃんは大好きな煎餅やおかき中心に。
大丈夫なのか
大丈夫。
大使館の帰りに飛行機のオープンチケットは買った。大阪行きが安かった。変更や返金もオッケーなので、これは保険として。
とにかく、そんなものの出番が無いよーにと、願うばかりである。
続く
【20年前の日記を読み返して愕然となりました。2023年の今も。悪が登場して、ここぞとばかりに正義の味方よろしく……という構図で。なんだかなぁ。うれうフライデー】