ニューハーフ世界大会が教えてくれたこと
ある日、TwitterでDMを頂いた。
「ミスコンで通訳してくれませんか?」
ほほー
電話することになり、話が始まる前に、ある質問というか確認される
「LGBTとかトランスジェンダーに対して不快な思いとかありますか」
「ないですけど・・・」
「実は、今回のミスコンはニューハーフ世界大会でして」
おお!面白そう!
実は、私が出会ってきたニューハーフはどれもすごく陽気で大好きだし、一緒にいるだけで元気をもらえる。
ベロニカはワクワクしてきた。
ミスコンにあまり興味がないけれど、今回の大会に向けてワクワクドキドキが止まらなかった。
前回のファイナルを見て、ぜひとも挑戦したいという気持ちが増した。
今までやってきた通訳の中では、最も話の内容も何を質問されるかも分からないし、気持ちまできちんと伝えることができないとダメだ。しかも、テレビ取材または舞台での通訳まであるという。
いい経験になりそうに違いない。
しかし、ベロニカが思っていたより、色々勉強になるとは、想像もしなかった。
多様性と平等について色々考えさせられた唯一無二の経験になったに違いない!
日本チームと合流した日は、もうみんな早朝から動いているという。
睡眠時間はほんの僅か、1時間以上寝れたらラッキーな方。
それぞれの国の代表たちをはじめ、ヘアメイクなどの方や開催側のスタッフまで。
その努力と我慢のお陰で、出場者全員がとても綺麗だった。
当日はナショナルコスチュームとタレントショーの予定で、夕飯の後、さらにあるインタビュー動画の撮影。
早朝起きて、ずっと動いていて、さらになるべく完璧な自分でいるようにして…しかもずっとハイヒール!!!
ほぼ食べれず、疲れていて、足が痛くても、常に笑顔でいる。
もはや、人間を超えた何かに見えてきてしまった。
誰もいないところでは疲れが顔に出るけれど、スタッフか関係者が来ると、秒速でプロならではの笑顔を見せる。
私にはできない。そんなのじゃ無理かも。
そして、何も知らない私が思った
「ここまでして意味がある?!」
「その原動力は何でしょうか?」
と色々見ているうちにどんどん興味深くなってきた。
世の中は、多様性とか平等とか人権とか語るけれど、この大会ほど多様なことはないことに気づいた。国籍を問わず、生まれた体と心が一致していないから美しい女になるために努力し、この舞台に立つ。しかも、他のミスコンと違って、年齢またはスタイルの制限はなく、女性そのものを祝っているように見えた。
とても輝かしい世界だった。
…
翌日。
朝から色んなテレビ取材の予定だ。
タイで最も有名なテレビ局のモーニングショーに出場者が出る。その後、別の取材があり、オンラインテレビでのインタビューを受ける。
皆疲れているのに、笑顔で上品に振る舞い、ちょっとした休憩時間があればゆっくりして、エネルギーチャージをする。
テレビ局での生放送が終わり、もう一つの取材を受けたあと、最後の取材を受けるためにバスで移動。
そのオンラインテレビのインタビューは楽しく始まったが、途中から話がとても重くなってきた。
子供の頃から、女だということに気づき、環境のせいで隠したり、バレたら大変なことになるなどの話になってきた。
同性愛と同性婚を認めない国がたくさんある中で、自分らしく生きているだけで、LGBTなだけで殺される国もある。
ニューハーフのミスコンを未だに認められている国がたった4ヶ国という。ほとんどの理由が宗教と社会にある。だから、そういうミスコンを開催するために、開催できる国まで行ってやるわけだ。この時点で、金銭的にとても厳しい状況だ。
それでも、出場者が努力して、見た目を整え、ハイヒールでの歩き方を毎日練習して、理想の身体になるためにさらに筋トレして・・・さらに、交通費・ドレス代・生活費などのためにお金を集めないといけない。
全ては、ありのままの自分らしい自分を認めてもらうためだ。
そして、母国でのLGBTに関する認識を変えるためだ。
みんな、同じ人間なのに、ここまでしないと何も変わらないかもという大変さを見ていると、こっちまで悲しくなる。
そして、平等と多様性、さらに生まれてきた時点での特権についても考えさせる。
世の中は、平等な世界ではない。生まれてきたことによって、大抵どのような人生を送るかは、決まるもの。国籍、経済的な環境、教育の環境、宗教的な環境など。
生まれただけで、人生が決まるほとんどのカードが配られ、そのカードでどんなプレイをしていくかは自分自身だが、いいカードをもらったらより生活しやすいと同様に、弱いカードを配らればどんなに頑張っても勝てないかもしれない。
…
インタビュー中は、「自分はどれだけ恵まれているんだろうな。周りに恵まれている人たちが山ほどたくさんいるのに、それに気づかないだけだ」と改めて思った。
…
出場者は、LGBTというだけで、いじめられたり、人権のために戦ったり、誰よりも努力してきて今の舞台に立っている。それでも、出ただけで勝てなければ母国に帰れない人までいた。殺される可能性のある人もいる。だから、覚悟を持って、世の中を変えるために、自分の命まで賭けて出ているわけだ。
こういう話をしている中、出場者が泣いてきてしまう。一緒に出ている女性たちの話を聞いたら、大変な想いをしてきたから、世の中の不平等に納得することができないから、などの理由がたくさんあった。
カナダ代表は最初「私はこの中で最も綺麗で最もセクシーではないかもしれないけど、ありのまま生きることができて何より最高だ」と話したが、他の出場者の話を聞いていたら泣き出し「私はLGBTを認めている国で生まれて、とてもラッキーだと思った。みんなの話を聞いているだけで、悔しくてたまらない」と。
みんなは、クイーンになるために、この舞台に立っているけれど、それより強い思いがあるから、頑張っている。
LGBTコミュニティーを認めてもらえますように、平等な世界がありますように、これからの子たちが同じ思いをしませんように・・・
私まで泣きたくなった…
大会が終わった後も、1人の出場者が「国に帰れない」という。
その言葉は、勝たなくて恥ずかしいから言っているわけではなく、覚悟を持ってこの大会に出たから認知されて殺されたくなければ帰れないという意味だった。
とても残酷な状況で本人が可哀想だと思った。
21世紀なのに、未だにオープンで多様性を認めない人が山ほどたくさんいる。未知が怖いから、個人的に違いを気に食わないから、などのそれぞれの理由があるだろう。
だけど、他人の自由と生き様を犠牲にしてまで、自分を正当化しないといけない?
違うよね~
気に食わないなら、無関心になればいい。
だってそんな人ですら、どうやって生きていればいいか一々指摘されたくないはずだ。なのに・・・
一刻も早く誰でもありのままで好きなように生きれる世界になるのも、希望的観測だ。
勝手なイメージなんだけど、ミスコンはとても輝かしい世界で、夢がある。年齢とスタイル抜群の女の子たちが世界の平和を願う舞台に立つだけだ。
しかし、ニューハーフ世界大会は、それ以上に凄い舞台だと強く感じた。綺麗な女性がいるのはもちろんだけど、気づきと学びがたくさん待っている多様性を認める祭典だった。
みんなも早くオープンになればもっと楽しくて面白い人生をできていたかもしれない。
嫌う気持ちに費やすエネルギーを別のところに回せばいいのに、と常に思う。
最後に、願い事を書いておきます。
早く、多様性を認める平等な世界になりますように!!!
追伸、通訳・翻訳・ライターの仕事を常に募集中です〜!