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大人の夏休み工作 ①左官体験


結局、手仕事よ。人の手による唯一無二の物の素晴らしさよ、という気付き。
自らの手で何かを生み出してしている人へのリスペクト。
そして、そういうことを自分もしてみたい、あわよくば仕事にする可能性につながらないかな。
そんな思いと、ワークショップの開催が重なったので、これ幸いと、体験してきた。いうなれば、かなり大人の夏休みの工作だ。

左官体験で漆喰を塗る

たとえば白鷺城のまぶしいばかりの白。それが漆喰。お城までいかなくとも、ちょっと素敵な武家屋敷(どこ?)、お洒落なレストラン、こだわりの友人宅などで目にする漆喰の壁は、文句なく美しい。そんな漆喰の壁には憧れがあった。

それが、自分で塗れるなんて。カッコいいじゃないか!
塗った壁、塗る自分、どちらもカッコいい。

漆喰壁の立派なお屋敷


さて、左官体験。道具は用意されているので、汚れてもいい恰好を、という案内だった。粉が散るので気になる人は眼鏡もあったほうがいいとのことで、わたしは家にあったゴーグルを持参した。

その日のワークショップの参加者は男女入り混じっての5人だった。実際に自分の家のリフォームなどで実践したい人、鏝絵の勉強中の人、など。
わたしも、いつかは自分で古民家を得てそこに漆喰壁を!というひそやかな願いと、もし才能の片鱗がちらっとでも窺えたらそのまま弟子入りしちゃってもいいぞ、くらいの野心を持っての参加。

作業場には、壁に見立てた板が人数分立てかけてあった。床に汚れ防止のビニールシートが敷きつめてある、いかにも作業場らしい作業場で、普段は部外者はぜったいに入れないであろう場所だ。まずそこに入る時点でワクワクする。
大きなバケツにたっぷりと白いドロドロの漆喰が入っているのが見えた。もう気持ちは職人さん。

漆喰は、サンゴ礁からできた石灰石を焼いた粉に、海藻由来のノリと、スサという繊維材と水を加えて練って作る。自然素材でできている(ことが多い)ので、世の中の流行りとも合致。これからもてはやされそうな気配がムンムンだ。しかも調湿性・防火性もある。

だからといって完璧かというと、やはりデメリットもあって、すぐそばまで鼻を近づけると、ちょっと海の生臭さがある。それから、水回りには向かないそう。工賃もそりゃ、クロスを貼るよりもかかる。

いざ、コテを手にする

さて、それぞれがゴム手袋をして道具を手にする。右利きのわたしは、右手に鏝(コテ・ちなみにウナギは鰻)左手に、コテ板。
コテは、小さ目のスチームアイロンを持ち手と底の金属部分だけにした感じ。コテ板は持ち手の付いた四角い板。角が二か所落としてあるのだが、この意味は最後まで分からなかった。

ちなみに、このコテこそが、左官を左官たらしめるもので、コテを持って仕事をする人と、コテでされた仕事が左官と言われるのだ。料理人にとっての包丁、剣士(誰?)にとっての剣、作家においてのペン(今時?)ってことだ。

左官体験中の写真は、ない

まずは、職人さんに塗り方の見本を見せてもらう。
頼もしいことに若い女性の職人さんもいた。心強い。漆喰を練るだけでも結構な力仕事なのだ。どうか頑張って成長して立派な左官職人さんになって欲しい。腰には気をつけて。そして、今日は優しく教えて。

バケツの漆喰をコテ板に乗せると、それをコテに取って、壁の下から上へと塗っていく。みるみるうちに、障子の上半分くらいの大きさの板が白壁に変わっていく。早業にうっとり。

あまりにあっという間だったので、簡単だと思うじゃない。
自分でやってみるとこれが大違いで。

漆喰をひしゃくですくってコテ板に乗せる。さすがにここまでは問題ない。
ひとすくいでも割とずっしりした重みがある。テクスチャーとしては、おそらく馬の・・・やめておこう。発酵前のパン生地、くらいの感じか。水分の多い粘土のようで、コテ板を立てても落ちないくらいの硬さだ。

それを適量、コテに移す。適量も、コテに移すのも、笑っちゃうくらいうまくいかない。右手をくるっと返すスピードが遅いと漆喰がコテに乗らない。早すぎてもコテに乗らない。
手がもう一本あれば…と切実に思う。周りの人達が壁に向かっているのが目に入り、焦る。

さて、いよいよ板に漆喰を塗っていく。
下から上に塗っていくのだが、ここで難しいのは同じ厚さをキープすること。
ちょっと力の入れ加減が変わると、下の板が見えたり、分厚くなったりする。それを、職人さんは、そういう時はこう、とすぐに手直しして、その部分がわからなくなるのだけれど、わたしは更に穴を大きくする技術を持っていることがわかった。
ただ、乾く前はやり直しがきくので、何度でも練習ができる。

時々、スムーズにコテが滑って、ああこの感覚だ!とわかる。
ホールケーキの側面に生クリームを塗るときをイメージしてほしい。似てるのだ。美しい仕上がりのために必要なのは、適切な量と一定の角度とスピード。
極意を得たり。得た。得たぞ。
ただ、得たけれど、再現ができない。
「そんなすぐにできたら、俺たちの立場ないじゃない」とほぼわたしにつきっきりで教えてくれた職人さんが笑う。

平らに壁を塗った後は、コテで模様をつけていく。ちょっと扱いに慣れたコテの角を使って、渦巻や、扇形などを描く。個性が出るので、このセンスがあれば、例えば自分の家ならば、左官技術の未熟さをカバーできそうだ。

いろんな模様がつけられるのが面白い


壁を塗った後は、持ち帰り用のパネルを製作する。さすがに壁をしょって帰るわけにもいかないので、インテリアになるくらいの大きさのパネルががおみやげになる。

色を加えたり、小石やガラスなどを乗せたりと、遊びの要素が加えられるので、みんな夢中。
石も漆喰が乾かないうちにギュッと押し付けると、出来上がったときに落ちてこなくなる。


パネル製作中


左官の奥深さ


パネルを乾燥させている間に左官についてのレクチャーを受けた。
海外の漆喰の建物や、鏝絵、漆喰以外の左官の話など。例えば、遊園地の遊具などにも左官の技術は使われているそう。

左官仕上げの床。美しさと可能性は無限


ここで話を聞いてから、わたしは街を歩くたびに、いろんな壁や床が気になってしょうがない。これ漆喰、これ左官仕上げ、とキョロキョロしまくっていうので、傍からはほんのり怪しい人に映っているかもしれない。


長岡・「旧機那サフラン酒」の蔵の鏝絵。なかなかクレイジー


さて、作ったパネルが手元にやってきた。思った以上に良い出来栄えだし、インテリアにもなじんでかなり嬉しい。(下のパネル)

なかなか筋がいいのでは!?


左官職人への道もありかも!?・・・と思ったけれど、一番難しいのは天井に漆喰を塗ることだそうで、脚立に乗って天井に手を伸ばす自分を想像しただけで、転落の未来しか見えないのでちょっと保留。
ただ、楽しかったので、実践でいつか自分の家を塗りたい、とは本気で思っている。
もしも、塗ってもいい壁をお持ちの方は遠慮なく申しでて欲しい。塗ります。


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お世話になったのは、原田左官工業所さん。Twitterにワークショップのお知らせが載ることがあります。若い人!左官には可能性があるよ!!











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