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体験記 〜摂食障害の果てに〜 (52)
便秘
食べ物の量が増えてきたせいか、全くお通じがなくなりました。最初の頃は、軽く考えていました。ところが、何日経っても、全くお通じがないので、お腹が痛い気がしてきました。
看護師さんに相談すると、下剤を飲んでみてはどうか、と勧められました。研修医の女の先生が、『数滴飲むだけで効果がある』下剤を出してくれました。でも、全く効きません。そこで、下剤の量と回数を二倍に増やしました。でも、さっぱり効きません。
とうとう、お腹が痛くて、食事するのが苦しくなってきました。お腹をさすってみましたが、全くお通じの気配も起こりません。
ある日、お昼ご飯を食べていたら、お腹とお尻に突き上げてくるものがありました。そのあまりの痛みに、お昼ご飯を食べられなくなりました。これと同じ痛みは、大学生の時、経験しました。まさか、病院でこんな日が来るとは、予想もしていませんでした。
私が、大学生だった時、女子寮で初めての自炊生活が始まりました。ところが、人見知りの激しい私は、捕食室(調理室のこと)で他の寮生と出くわすのを恥ずかしがり、自分の部屋だけで食事の用意を済ませていたのです。その為、ブンセンのりとなめ茸をご飯と一緒に食べるだけ、わずか五分程度で完了する食事を、半年以上も続けました。
又、トイレが家の和式と異なって洋式だった為、排泄も遠慮がちでした。
そうしたところ、フランス語の講義中、猛烈な痛みが下腹を突き上げ、私一人、ピョコンと起立してしまったのです。座ろうにも、直腸が痛くて座れません。地獄でした。
それから食事の改善をし、野菜やヨーグルトを食べ、ご飯を極力減らしました。そのお陰で、便秘の改善ができたのですが、以来、ご飯というと、『便秘』のイメージが強く残ってしまいました。今回は、あの時のように自分での解決ができない状況です。
そこで、看護師さんに相談しました。看護師さんは、
「坐薬を使ってみますか。」
と、私に聞きました。坐薬で便秘が治るなんて、初耳です。私は、浣腸の方が効くのではないか、と言いました。でも、あいにく、私には浣腸の許可が出ていないのです。まさか、浣腸に主治医の先生の許可が必要なんて! と驚きました。でも、その理由までは、わかりませんでした。
(後で聞いた話ですが、浣腸をすると、一気に血圧が下がって、命を落とすこともあるそうです。もしくは、浣腸で傷がついた場合、出血が止まらなくなる恐れがあったそうです。私は、肝不全だったので、血液が作られず、血小板が少なかったので、出血した場合、血液の流出が止まらなくなる可能性があったそうです。)
苦しかったので、坐薬をお願いしました。おなかが猛烈に痛くなっただけで、全く効きません。もう、二度としたくない、と思いました。すると、看護師さんが、
「摘便してみますか?」
と、言いました。指で直接、掻き出す手法です。さすがに私も、気が引けました。いくら何でも、看護師さんにそんなことまでさせては、気の毒すぎます。遠慮していましたが、お腹が痛くて我慢できるレベルを超してしまったので、恥を凌いで、とうとう、摘便をお願いしました。
横を向かされ、手袋をはめた看護師さんが、グリスを用意し、便を掻き出して下さいました。顔から火が出そうですが、おかげで少し楽になった気がしました。でも、その掻き出された量が少量だった為、翌日もまた、お願いすることになってしまいました。看護師さん達は、
「みんなやっているから、少しも遠慮することはない。なんとも思っていない。」
と、大変気さくに言って下さいます。でも、やっぱり、申し訳なくて、心の中で、手を合わせてしまいました。
ここに来て、もう知られていない所は無くなってしまいました。恥ずかしいとか、そういう感情は、どこかに捨ててしまわなければならないものなのです。
(つづく)