宇宙のコンビニ
『サメネリとバミガキブラシ』
歯は一生の友というが、虫歯に歯槽膿漏、なかなか一生そばにいてくれない。
ところが、この『サメネリとバミガキブラシ』を使って歯を磨くと、たちどころに新しい歯が生えてくる。それは何千何百回と生え変わり、尽きることがない。
ただし、毎日歯を磨くこと。それが条件。
猿の子供が、宇宙のコンビニにやって来た。首にふさふさの襟巻きを生やし、ぬいぐるみのように愛らしい。口をきゅっと引き結び、ほっぺを片手で押さえている。
「いらっしゃいませ、お客様。何をお求めでしょう?」
私は宇宙のコンビニの店長。お客様は、誰でも大歓迎する。
「ぼくの口の中、こんなになっちゃったの。」
子猿は、口を大きく開けて見せた。どの歯も真っ黒、虫歯だらけだ。
「ぼく、人間と友達になったの。そしたらね、毎日、おいしいお菓子を持って来て、ぼくにくれるの。『仲良しの証拠だ』って。ぼく、全部食べちゃった。そしたら、歯が痛くなって、バナナもリンゴも、かんで食べられなくなっちゃった。ぼく、どうしたらいいんだろう?」
子猿は、大きな涙をぼろん、こぼした。
「こちらへどうぞ。きっとあなたを助けるものがあるでしょう。」
私は子猿を店の奥の沼へ案内した。沼の水面には、大きなハスの葉が寝そべったように浮かんでいた。
「ねえ、あそこに何か見えるよ。この葉っぱの上を歩いても沈まない?」
小猿が尋ねた。私は、
「ええ、もちろん。」
と、頷いた。子猿は、ポンポン、ハスの葉を飛びわたり、そこにあった物をつかんで戻ってきた。
「これ、なあに?」
子猿が私に、手の中の物を渡した。
「これは、『サメネリとバミガキブラシ』。これで歯を磨くと、新しい歯が何回でも生え変わってくるのです。」
「それじゃあ、また何でもかじって食べれるようになるってことだね? この痛いのも、なくなるんだね?」
「その通りです。」
子猿は、手を叩いて、くるくる回った。
「わあい、やった! 代わりに、これをあげる。」
子猿は、首の襟巻きから、小さなバナナを一本、取り出した。
「これはとっても甘いよ。木登りして採ってきたけど、歯が痛くて食べられなかったの。治ったら、ぼくは、いつでも食べることができるけど、あなたは、そうはいかない。どうぞ、食べてみて。」
子猿から受け取ったバナナは、人肌に温まっていた。
「どれ、一口食べてみましょう。」
私は、バナナを皮ごとかじった。爽やかな香りが鼻の奥でハミングする。甘くつるりと喉を通過し、バナナは、跡形もなく私のお腹へと収まった。
「実においしかったです。ごちそうさまでした。」
私は、子猿に『サメネリとバミガキブラシ』を渡した。
「ああ、よかった。じゃあね。」
子猿は手を振り、宇宙のコンビニを出て行った。
子猿は、森に帰ると、
「どうやって、歯は磨くの?」
と、母親に尋ねた。
母親は、子猿から『サメネリとバミガキブラシ』を受け取ると、
「お母さんは昔、人間と暮らしていて、歯磨きをしていたの。口を大きく開けてごらん。」
と、言って、子猿の歯を、ゴシゴシ丁寧に磨き始めた。
すると、真っ黒の歯が、ポロリと取れ、その下からゆで卵のように、つやつやツルツルの新しい歯が、ニョキニョキ生えてきた。小猿は大喜び。スルスルっと木登りし、大好物のバナナをお腹いっぱい食べる。
「ぼく、お腹ぺこぺこだったの。だって、ずっと食べてなかったんだもの。」
子猿は、今日も歯を磨く。家族そろって、ゴシゴシきゅっきゅっと、大切に磨く。
(おわり)