同志少女よ、敵を撃て / ウクライナ国立バレエのダンサーたち
「同志少女よ、敵を撃て」。
第2次世界大戦中、ソ連では女性だけの狙撃小隊が組織され、対ドイツ戦で大活躍したのだそうです。
本作は、生まれ育った村をドイツ兵に襲われ、家族や親しい人たちを皆殺しにされたソ連の少女が、狙撃兵として訓練を受け、命を懸けて闘い抜く日々の葛藤と成長を描いた小説です。
2022年の本屋大賞を受賞した、逢坂冬馬さんのデビュー作。やっと順番が回ってきて夢中になって読みました。評判通り、史実に基づく綿密な構成とスリリングな描写に、ページをめくる手が止まらない。
ソ連とドイツ、男と女、大人と子ども、軍人と一般人、軍隊の階級や兵科の区分、ソ連邦内の民族自立etc.の対比や差異を単純化して二元論的に描くのではなく、戦争や人間の実態を重層的に表現する筆致に圧倒されました。
ロシアによるウクライナ侵攻という現実があるだけに、リアルな闘いの苦い実相が心に残ります。
そして読後、わが祖国に意識が行くのは自然の流れ。
日本は、正確な情報提供・状況分析と国民的議論をすっ飛ばして、総理大臣がアメリカ大統領に会いに行き、防衛費大幅増だのアメリカの兵器の爆買いなどのお土産を進呈してニコニコ自己満足している場合なのでしょうか。
教育、福祉、介護、各種インフラの更新…
税金を費やすべきところは、軍事以外に沢山沢山あります。
昨年末、「徹子の部屋」に出演したタモリさんが、2023年はどんな年になるかと問われて「新しい戦前になるんじゃないですかね」と答えたことが大きな反響を呼びましたね。
「戦争が廊下の奥に立ってゐた」(渡辺白泉の無季語俳句)
の再現になりかねない昨今の状況に、危惧を抱いている人も少なくないのだと、ちょっとだけほっとしました。
ウクライナつながりの話題をもう一つ。
「戦禍のウクライナ国立バレエ2022」が、明後日17日の朝9時から、NHKのBS1で再放送されます。
あるいは国外のバレエ団に移籍し、あるいは避難先から故郷に戻り、あるいはずっとウクライナに潜んで……
それぞれの場所でウクライナの誇りを胸に闘うダンサーたちの姿と、彼らを陰に日向に支える人たちの活動を、1時間40分にわたって綴った、重みのあるドキュメンタリーです。
バレエダンサーたちの動きの優雅さ美しさと、故郷が魂が絆が戦争によって破壊される痛ましさ。その落差に眩暈をおぼえます。
関心をお持ちの方は、是非ご覧ください!
では、今日はこの辺で。