観劇感想『GOOD-善き人-』
杉村春子の『女の一生』
山本安英の『夕鶴』
これらに比肩しうるような「俳優と戯曲の出会い」だと、先週木曜日の朝日新聞夕刊の劇評に載っていたのに心惹かれて、佐藤隆太主演の舞台『GOODー善き人ー』を観てきました。
ナチス時代を生きた、ある「善良な」ドイツ人文学者の迷走っぷりを描く、とても重たいお芝居です。
ローレンス・オリヴィエ賞受賞演出家のドミニク・クックがC・P・テイラーの原作を舞台化したイギリスの作品で、演出を長塚圭史が担当。この原作は映画化もされたようです。
以下、ネタばれありです。
<あらすじ>
舞台はナチスが台頭し始めた1930年代のドイツ、フランクフルト。大学でドイツ文学を教えるジョン・ハルダー(佐藤隆太)は、脳に障害を負っている妻ヘレン(野波麻帆)と3人の子供たち、目が悪く認知症も患う母親(那須佐代子)の面倒をみながら暮らす良き家庭人であった。たった一人の親友は、ユダヤ人の精神科医モーリス(萩原聖人)。彼には個人的な悩みも打ち明けることができた。その悩みの一つが、何らかの劇的な瞬間に遭うと頭の中で幻の楽団による音楽が流れるという妄想癖だった。
ある日、ハルダーは教え子の女子学生・アン(藤野涼子)から相談を受け、その夜自宅に来るように言う。夜遅く雨でずぶ濡れになって現れたアンに、彼は好意を抱き、不倫関係に陥ってしまう。
一方でハルダーは、かつて母親への対応に疲弊していた時に書いた安楽死に関する論文を、ヒトラーが読んで気に入ったことから、いつしかナチスに取り込まれていく。
公私両面にわたって難題が押し寄せる「善き人」ハルダーが進む道とは…
ステージの三方が、下部を数10センチ開けた白い壁に囲まれ(舞台と袖を行きかう出演者の足が客席から見える)ていて、「善」をイメージさせつつ同時に不穏さも醸し出しており、ラストシーンでは殺伐とした暗色の場へと印象的な舞台転換があります。床には白いボックスがいくつか置かれ、イスやテーブル、ベッドに見立てたり、様々な小道具を出し入れする場所も兼ねています。上手側の一角はバンドの演奏ブースとなっており、時にハルダーの「妄想の楽団」となり、時には普通に劇伴を奏でます。
非常に重いテーマの作品を意外と軽やかに見せ、長塚演出は良くできていると感じましたが、一つ大きなマイナス点が。
それはバンド演奏自体は意図通りの効果を発揮していたのに対し、何度かの歌がどれもあまり上手いとは思えなかったこと。かなり残念でした。
演技については、若干台詞をかむ場面もありましたが、皆さん正面から役に取組んでいて、大健闘されていると感じました(観ているだけの素人のくせに偉そうな物言いですみません)。
出ずっぱりの佐藤隆太さん。いかにも「善良」な佇まいでありつつナチスに与する羽目になる様が、ごく自然に見えて、確かに「はまり役」です。
萩原聖人さんもユダヤ人インテリらしさがよく出て、印象深かったです。
藤野涼子さんは役柄がちょっと類型的と言うか、ご都合主義的な存在かな?
低めのトーンの台詞が聞きやすく、うっかり癒されそうになったところで、終盤、ナチス親衛隊の制服姿のハルダーを送り出す場面、
「あなたは善き人」(うろ覚え)
と囁くセリフ。実際にどこでもありそうな欺瞞に、背筋がぞっとしました。
観劇後、強く思ったことは
「『違和感』を都合よくごまかしてはいけない」
ということです。
この春に始まったNHK朝ドラの主人公ではありませんが、「はて?」と首をかしげてしまうことの多い昨今。
「小さな『?』をおざなりにしない」と、しっかり心に刻もうと思います。
最後に、この日の美味しいものをご紹介。
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