10 遠距離恋愛。『アイタイ、サミシイヨ』

私達は離れてしまった。
距離が離れたと同時に心も離れる、そんな気さえしていた。だから引っ越しがすごく
怖かったし淋しかった。
 ずーっと考えていた 独身の外国人の彼氏との別れ。私は家族がいて子どももいる。
いくら好きでも家族をおいてまでB君の所へは行けないし、天と地がひっくり返り私が離婚したとしてももう子どもは産めない。
 多分、遠距離になる事でこの関係は終わるし良いタイミングと思い私の不倫をおしまいにしないといけない。
 長々と前置きしたが、離れても何にも変わらなかった。電話、LINEは頻繁にあるし
気持ちは全く離れていない。
むしろ、B君は離れたからこそ私の大切さがわかったんじゃなかろうか?
今までより頻繁に連絡がある。
 『サミシイヨ アイニキテヨ カエリタイ』
まさにホームシックの子ども。
 友達や知り合いがいない土地にひとりぼっち。 慣れない毎日の仕事がどれだけストレスだったろうか…
 簡単に会いに行ける距離じゃないし、
休みがあったとしても田舎者の主婦は
1人で新幹線にも飛行機にも乗った事がない。
 車であちこち行けても関東圏まで行くなんて出来ない、無理。
『会いに行きたいけど行けれない、新幹線に
1人で乗れないし切符の買い方も分からない』
謝るだけ、私は。
 採用された職場の不満があったから余計に
辞めて、そっちに帰りたい そんな気もあったみたい。  
私は『辞めて帰っておいで』なんて言えない。
 就職して1か月、、、やっぱり淋しかったみたいだ。
『休みをもらって会いに帰る、2日間休みをもらい深夜バスで帰るから朝、迎えに来てよ』と。
 金銭的な事を考えると安いバスがいい。  夕方仕事をおえてすぐに新宿へ。
その間、ニュースで関東地方の電車が火災によりストップしていると速報。
まさか、電車が止まってる?
 連絡するが既読ついても返信がない。
ごった返した駅に遅延しまくりの電車。
深夜バス出発の時間は決まっているのに
無事に乗れるか?心配もあった。
初めて夜行バスを使い帰ってくるんだが
外国人だし場所もわかるだろうか?
分からなかったら日本人にちゃんと聞けるか?
我が子を待つ母親の気分。 
 バスターミナルにギリギリ着いて何とか乗れた、とLINEが来た。
明日、早起きして迎えに行かないといけない。
早く寝よ、と思っても会えるワクワクで眠れなかった。 早朝おきて子どもの朝ごはんを
支度し私は仕事のふりをして家を出た。
めちゃくちゃ急いでもバスが着く駅には1時間以上かかる。
 もう到着したからバス待合室で待ってる、とLINE…
 やっと着いた。『着いたよ』とLINEすると
疲れきった顔してニヤニヤ半笑いのB君,
『カエッテキタヨ』って助手席に乗り込むと私を抱いて ぎゅーっとする。
  『おかえり』と言いながら涙も出る。
会えた嬉しさで2人抱き合う。
私にアイタイとたった1か月で帰って来た。
 日本では私しか頼りになる人がいない
自分の日本の家族は私だけだ
 と 他に親しくする日本人も居ない。
流石に、友達には連絡をしなかったようだ。
 戻って来た理由はただ一つ、
私に会いたいから帰って来ただけ。
 好き以上の愛おしい存在…
 堂々と付き合う関係ではないコソコソ会っている私達。 やっぱり簡単にはサヨナラできないよ、離れてもずっと会いたいと考えてしまう。 
1か月ぶりに触れた体。
『マッサージしてよ』 いつもそう言って甘えて来ていた。 マッサージしながら仕事の不満を聞く…  まだ慣れないからだろう
面白くない、自分が思っていたような仕事内容じゃない等。 
 朝から夜まで2人の時間を過ごした。
めったに泊まりに出張なんかない旦那が
前乗りで出張ー 今日は帰らない、明日
帰ると。  
  何だろう?今日だけ神様が許してくれたんじゃなかろうか?とも思った。
だから夜まで自由。 残して来た子どもは
ご飯たべて風呂に入り、夜遅いからと既に1人で寝ていた。 
  久しぶりに2人きりの夜を過ごして
B君は知人アパートに泊まらせてもらうと
わかれた。 
 翌日はもう東京に帰らないといけない。
  駅に行く前に
『何か思い出になる物を買いたい』
そう言って店に入った。
白いキャップを買ってすぐ被って
『これ、思い出の物!さみしくて1か月で戻って来てしまったってキャップ見たら今日の
事を思い出す』って笑ってた。
 胸がギューっとなる‥  
 さみしくて私に会いに帰ってきた彼が本当にいとおしかった。
 新幹線の時間は3時過ぎ。
私もホームで見送りについて行った。
 何本か新幹線の出入りをみるがなかなか乗り込もうとしない。
さみしくて仕方なかった、お互いに。
  『よっし次のやつに乗るよ』って
覚悟を決めて…
泣かないでよ、また会えるから!と
言うが泣くに決まってる。
  『泣かない、早く帰らないと娘が帰ってくるから』娘なんかほっておいても帰ってくる。
 彼は少し振り返り手を振って席を探していた。 バイバイと手を振って私も新幹線ホームから早歩きで駐車場に向かう。
 新幹線を見送ったと同時に嗚咽し周りからジロジロみられる。  
 この関係は不倫とか浮気とか変な関係じゃない 私にとっては純愛そのものって
勘違いしていた。
 寂しいよ 行かないで側にいてよ ずっと一緒にいたいよ 心の中ではそう叫んでたけど
それを口に絶対に出さなかった。
B君を困らせないように、また東京で頑張れるように母のような気持ちで背中を押して見送った。 


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