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日本一の秘境駅への誘い―『礼文華観光案内 微改訂』―
「秘境駅」というのをご存じだろうか?鉄道で行くのも、クルマで行くのも、場合によっては徒歩で行くのも困難なところにある駅の俗称だ。その秘境駅において国内で最たるものとされているのが室蘭本線の小幌駅である。長万部からわずか2駅。かなり近いように思えるが、そこは礼文華と言われる交通の難所の真っ只中にある。海沿いまで断崖が広がっており、さながら親不知・子不知(おやしらず・こしらず)といったような場所だ。
そんなところにあるものだから、停車する列車は1日数本、普通列車すら通過する。車で駅まで行く道はない。駅に最も近い道路から徒歩で行こうにもロクな道はない。当然、駅の周囲に人家はない。あるのは保線関係者向けのちょっとした施設のみ。JR北海道にとっては、保線のために必要な場所でも一般人にとっては利用価値が「ほぼ」ないレベルの駅、それが小幌であり、その観光案内本が『礼文華観光案内』である。
買ったのは「微改訂」版、情報がいくらか追加されているらしい。小幌に通い、周囲の山道(といって良いレベルだろうか?)を歩き倒し、ガイドマップ化した本である。長万部駅横の観光案内所兼お土産店で売っていたのを見つけ、迷わず購入。宿で読んでみた。
すると、意外にも街道へ抜ける山道があるらしい。とはいえ徒歩数十分。山道を歩く装備も当然に必要。また、街道へ抜ける道に限らず、道が草木で埋まっていることがあるそうで、鉈で道を文字通り「切り開く」必要もあるらしい。ハードルはかなり高い。
しかし、その小幌にも人々の営みの痕跡が残っている。江戸時代の彫刻師円空が彫ったと言われる木像のある岩屋観音。そして、建物の基礎。礼文華は漁場であるようなので、その関連施設が造られ、の地に取り壊されたのだろうか?それらがたとえ少人数であったとしても、この小幌で人々の営みがあったことを示している。いやはや、恐れ入りました。
以前紹介した以下の本とといい、今回の本といい、こういう本は基本的にその土地へ行かない限り、見つけることはないと考えてよいだろう。有名なお土産を買って帰るのもいいが、たまにはこういうお土産とお土産話をセットにするのもなかなかに良い。特に相手が本好きであるならば。
なお、この本を読む、あるいは小幌駅について調べて興味を持ち、行ってみようとする場合、事前に天候やクマの出没情報を確認してから、そして、孤立リスクを考慮に入れた準備をしてから行くことをお勧めする。