「ポテンシャル•モデル」で成長余地を見抜く、未来志向のリーダー育成
採用や昇格を過去の実績で評価することは一見公平で合理的ですが、一方、人材の伸びしろを全く考慮していない点が問題です。
「この人材、磨けば光るぞ!」という若手や女性の伸びしろを可視化して、ポテンシャル(潜在能力)の高い人材を選抜してリーダーとして育成できるとしたら、どうでしょうか?
エゴン・ゼンダ―の「ポテンシャル・モデル」
そんな未来志向のリーダー開発を可能にする人材評価モデルが、エゴンゼンダーの提唱する「ポテンシャル・モデル」です。
エゴン・ゼンダー(Egon Zehnder)とは、世界37ヵ国で事業を展開する、世界最大の民間エグゼクティブ・サーチ・ファームです。
エグゼクティブ・サーチ・ファームとは、経営幹部人材を企業に紹介する会社のこと。つまり、エゴン、ゼンダーは、経営幹部人材の目利きに関して世界トップクラスのノウハウを持つ会社なのです。
この経営幹部人材を見る専門家集団は、人材の適性を、コンピテンシーとポテンシャルという二つの階層に分けて分析します。
コンピテンシー
個人の人材としての競争力の源泉、具体的には、高業績を実現する要因となる、個人の行動特性を指します。エゴン・ゼンダーでは、国や業種に関わらず、高い業績を実現するために必要なコンピテンシーとして、以下の8つのリーダーシップ・コンピテンシーを定めています。
成果志向
戦略性
協働能力
チームリーダーシップ
組織育成力
変革のリーダーシップ
市場理解力
多様性対応力
ポテンシャル
コンピテンシーは、適切なリーダー育成プログラムによって高めていくことが可能です。リーダー育成によって、人材がどの程度コンピテンシーを高める余地があるのか、つまり、伸びしろを示すのがポテンシャルです。
エゴン・ゼンダ―では、8つのリーダーシップ・コンピテンシーの伸び代を見抜く要因として、以下の4つのポテンシャルに着目します。
(日本語は、各参考文献をもとに、槌田にて意訳しています)
好奇心(Curiosity)
新たな知識や経験を追究し、学び続け、自分を積極的に自分を変えていこうとする姿勢。まさに、飽くことのない好奇心!好奇心は、以下3つの潜在能力を支えるもので、4つの潜在能力の中でも最も重要な要因です。洞察力(Insight)
あいまいで複雑な現実がもたらす大量の情報を処理し、わかりやすく意味付けようとする姿勢。意味付けから、未来への新たな可能性を見出すという点で、戦略性や市場理解力のコンピテンシーと強く関連する要因です。巻き込み力(Engagement)
人とつながり、深く理解することに喜びを感じる。その情熱とエネルギーと目的意識で周りの人を「感化」させ、情熱的かつ論理的にビジョンを人々と共有してwin-winの関係を築いていく姿勢。協働能力やチームリーダーシップ、組織育成能力のコンピテンシーに強く関連する要因です。岩をも通す強い意志(Determination)
困難な挑戦に喜びを感じ、創意工夫と粘り強さをもって障害を乗り越え、リスクを引き受けてビジネスチャンスを追求しようとする姿勢。一方で、既存の目標に固執することなく、必要とあらば事実に基づいて機敏に方向転換することも辞さない柔軟性を併せ持つ。成果志向や変革のリーダーシップのコンピテンシーに強く関連する要因です。
この4つのポテンシャルを「姿勢」と表現していることにお気づきでしょうか?ポテンシャルは能力ではなく、無意識に自分を駆り立てるエネルギーのようなものです。自然と、物事にそんな風に取り組んでしまう、その人の物事への姿勢として表れてくるものが、ポテンシャルです。
ポテンシャルを見抜く3つのポイント
採用面接や社内面談で4つのポテンシャルを見抜くには「好奇心はありますか?」「人を巻き込む力がありますか?」というストレートな質問では不十分です。候補者が質問の意図を察知して、模範解答を答えることができてしまうからです。
候補者のポテンシャルを見抜くために注意したいのは、以下の3点です。
エピソードを引き出す
何をしたかというファクトで判断する
相手の話を深掘りする
例えば、好奇心のポテンシャルを見たい場合、「組織内に学びの文化を育てるにはどうすればいいでしょう。」という質問をします。(HBR May 2015クラウディオ・フェルナンデス=アラオス「人材は潜在能力で見極める」)
そこで過去のエピソードを引き出し、すかさず、「その時、あなたはどうしましたか」と、ファクトを聞き出します。さらに、「周囲の多くの人を巻き込むために、どんな工夫をされたのですか。」など、関連する質問で候補者の行動を豊かに描き出し、そこから4つのポテンシャルを示す、物事への姿勢を判断していきます。
一問一答の面談ではなく、最初の質問をきっかけに様々な方向から質問を重ねて候補者の行動を浮かびあがらせ、そこに見えてくる姿勢から4つのポテンシャルを判断していく、というイメージです。
まとめ:中小企業経営への活用法
エゴン・ゼンダ―のポテンシャル・モデルは、30年にわたって役職者を評価・観察してきた同社のクラウディオ・フェルナンデス=アラオス氏が研究の成果として取りまとめたものです。研究対象は大企業の経営幹部ですが、「膨大な情報を意味付けして組織を戦略的に方向づけ、皆を情熱的に巻き込み、強い意志をもって果敢に困難に立ち向かう」リーダーの姿は、古今東西・組織の大小に関わらず同一です。
「好奇心」を人材評価基準に加える
ポテンシャル・モデル活用の第一歩として、幹部候補に関わらず、面接のの評価基準として、「好奇心」という要素を取り入れてみてはいかがでしょうか。好奇心は、入社後にあらゆることを学ぶ際の根本姿勢ですので、好奇心の高い人を採用することで、入社後の教育効果を高めることができます。若手の人材育成の優先順位付けに活用する
従業員数の多い中堅企業においては、ポテンシャル・モデルを活用して若手人材の伸び代を測り、伸び代の高い人材から優先して、各人材の未開発のコンピテンシーに的を絞った育成プログラムを組むことが可能です。例えば、伸びしろがあるのに戦略性と変革リーダーのコンピテンシーがない若手であれば、新プロジェクトを少数の部下とともに任せて、ゼロから市場分析をして戦略を見出し、チームを方向づける経験をさせる、ということが考えられます。経営幹部の自己分析ツールとして活用する
候補者選びだけでなく、経営幹部自身の自己分析ツールとしても有用です。自らを振り返ってポテンシャルに弱い部分があれば、自らの姿勢を改め、コンピテンシーをさらに高める余地を伸ばすのも良いですし、異なるポテンシャルやコンピテンシーを持つ幹部と、意識して補い合うように役割分担することも良いでしょう。従業員の自己分析ツールとして活用する
これらの情報を従業員と共有して、従業員自身が自己分析し、キャリア開発を積極的に考えるための知的ベースとすることも考えられます。評価する側・される側でこうした知識を分離せず、従業員と知識を分かち合い、各自が自主的に自分を高めていく、というのは、規模の小さい組織でこそ実現可能なフラットで自律的な組織の理想型だと思います。
ちなみに、私の自己評価は、「好奇心と洞察力は高いが、巻き込み力と岩をも通す意志の力は低い」というところです。経営コンサルタントとして、毎回異なる企業と戦略方針を考えるのは楽しくって仕方がないですが、今後多くの人を巻き込んでプロジェクトを立ち上げるような仕事の仕方をするのであれば、自らの姿勢を改め、チーム運営や成果志向のコンピテンシーを高める必要があるなと感じました。
皆さんの自己評価はいかがですか?
本記事は、以下の参考文献をもとに執筆しています。
より深く学びたい方は、ぜひご参考になさってください。
参考文献