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928(くにや) 取材記|東北随一のGALFY・オラオラ系ファッション販売店オーナー兼不動産オーナーが語る岩手県釜石市で事業を成功させてきた軌跡
「歴代最高の町内会長って言われてさ」
屈託のない笑みを浮かべながら、そう明るく語ったのは、「FASHION 928(釜石928)」を運営する有限会社くにや商会・代表取締役の鎌田英司 氏だ。”黒い店”のTVCMで知られる岩手県釜石市の「FASHION 928」は、岩手県内で言わずと知れたスーツ・学生服・オラオラ系ファッションを取り扱う老舗のアパレルショップ(服屋)である。
2025年1月。鎌田氏の厚意から、取材を行う機会を得た。鎌田氏との直接対談を経て、「FASHION 928」が全国各地に存在するアパレルショップと一線を画す強烈な個性を持つに至った経緯を紹介する。また、アパレルショップ「FASHION 928」とは異なる、不動産屋(大家)の一面についても紹介しよう。
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FASHION 928(釜石928)|”入りづらい店”で知られる個性的なアパレルショップの全体図
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JR釜石線と三陸鉄道が交わる岩手県釜石駅から徒歩5分程度。「FASHION 928」は、大渡町に入ってすぐの場所にある。”入りづらい店”で知られる店舗は、真っ黒く塗りつぶされた三階建てビルの1階、2階に入っており、その入り口には奇抜なデザインのステッカーやモニュメントが数多く並び、異様な雰囲気を醸し出している。個性的な様子は店舗の裏にも見られる。
928にとって重要だったハンバーガーの自動販売機との出会い
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「FASHION 928」は、入り口側から見るよりも裏側から見る方が全容を確認しやすい。なぜならば、「FASHION 928」は建物全体から見れば一部分であるためだ。建物の裏側に回ると、その事実が見て取れる。928ビルと建物の名称が掲げられ、自動販売機やコインランドリー、そしてテナントが入っている、一つの商業ビルだと分かる。
「3軒。A、B、Cって。928に住みたいって人が住んでいる。3階に行くと借りてる人が飲み屋さんをやったりしてるし、例えばビアガーデンみたいになったりライブハウスのようなものになっていたり。あとは普通の入居者が入居してる」
鎌田氏によると、928ビルはアパレルショップの「FASHION 928」の他、自動販売機スペースや飲食スペース、ビアガーデンやライブハウスのような機能が入ったスナックなどのお店、コインランドリー、そして928に住みたい人々が借りている賃貸住居といった様々なテナントが入っているコングロマリットビルとのことだ。これまで「FASHION 928」を中心に考えていた筆者にとって、この事実は目から鱗が落ちる思いだった。
「ハンバーガーの自動販売機は、東日本大震災後に日本全国で15台くらいしか作っていない会社の人に頼んで提供してもらった。商売をやめようと思っていたときにハンバーガーの自動販売機に出会って、こんなに良いものがあるのかと思って、作っているところを探して、最後の販売機を提供してもらえることになり、もう一度商売をやろうと思えた」
東日本大震災以降、928はハンバーガーの自動販売機で有名なお店になっている。その話題だけ見ると、変わり種の自動販売機が置かれている程度の話に思うかもしれない。しかし鎌田氏に伺ったところ、ハンバーガーの自動販売機は、鎌田氏、ひいては928の商売の存続が左右されるような大きな転機だったようだ。
現在の928には、ハンバーガーの自動販売機のみならず、ポップコーンの自動販売機やカップヌードルの自動販売機など、普段あまり見ない自動販売機が数多く置かれている。自動販売機は、新型コロナウイルスによるパンデミックを経て、今でこそ様々な会社が多様な商品を並べるようになったが、928は、ある種そうした自動販売機を設置する先達と言えるのかもしれない。
FASHION 928の店内は「龍が如く」を拡張させた龍が舞うダーク&ポップな世界観が広がる
928が異彩を放っているのは、店舗の入り口やビルの裏側といった外観だけではない。928にとって、むしろ外観は大人しい方で、いっそ普通と言って良いほどかもしれない。928ならではの強烈な個性を感じられる場所は、やはり店内である。その一端は、以前筆者のnoteで紹介したが、改めて928の放つ異彩、強烈な個性について紹介しておきたい。
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日本全国を探し回っても、店舗の一階に高級車やバイクを展示物の一つとして起用しているアパレルショップは、恐らくそうそうないだろう。ダークな雰囲気のパーティールームのような光景を見られるアパレルショップ自体があまりないはずだ。
まるでおもちゃ箱をひっくり返したような、多様なモンスターやキャラクターが遊び回っているようなワンフロアだが、よくよく見ると商品がしっかりと並べられている。1階はとくにセール品を中心に並べているようで、手ごろな価格で鋭い個性を放った衣服たちが所狭しと置かれていた。
ただハンガーに並んだ衣服を一枚一枚見ていくような購買体験ではなく、おもちゃ箱の中から自分だけの宝物を探し出す感覚でショッピングを楽しめる。岩手県釜石市のような田舎と呼ばれる地方では、間違いなく希少な体験型店舗だ。なお、多くの商品が用意されているのは2階である。それでは2階へと行こう。
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FASHION 928の2階は、オラオラ系ファッションを飾る衣服が所狭しと並んでおり、928のダークかつ多様性に富んだ世界観を創り出している。2階に上がってまず目が行くのは、やはり天井を舞う龍だろう。高知県でお神輿を作っている大工によって生み出された龍は、928の特注とのことだ。
龍は、壁にも用意されている。こちらは権現様を作っている大工によるもので、やはり928特注のようだ。オラオラ系ファッションと龍の組み合わせは、ゲームメーカーSEGAの代表作「龍が如く」を彷彿とさせる。もっとも928にはGALFY (ガルフィー)に代表されるポップな衣服も多い。そのため、ハードとキュートが同居する独特な多様性に富んだ空間となっている。
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東北屈指のGALFYブランド取扱店FASHION 928はどのようにして生み出されたのか? くにや商会代表鎌田英司 氏へのインタビューを通じて歴史を辿る
FASHION 928は、日本でも類を見ない独創的な世界観を創り出した岩手県釜石市のアパレルショップである。オラオラ系ファッションを取り扱う服屋で知られるが、一方でそうしたイメージに閉じない多様な世界観が展開されている。そんなアパレルショップは、どのようにして誕生したのだろうか。有限会社くにや商会 代表取締役 鎌田英司 氏のインタビューを通じて、FASHION 928の成り立ちを掘り下げよう。
FASHION 928は代表の好きを追求し続けて創り出された
有限会社くにや商会
住所:岩手県釜石市大渡町2丁目6番24号
電話番号:0193-22-2733
営業時間:11時-18時
定休日:水曜日
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----FASHION 928が今の形になったのはいつ頃からでしょうか
928が今の形になったのは東日本大震災の後だね。東日本大震災前までは、1階がスーツ売り場で、2階が婦人服売り場。東日本大震災後、1階のスーツ販売はやらなくなっちゃった。
----東日本大震災以前は、奥の小さなスペースにあったメンズカジュアルフロアによく行っていました。今日着ているGALFYのオーバーオールを買ったのもその頃です。15年くらい前ですね。そのときのイメージがあるので、私にとって928はスーツや学生服のイメージです。実は自分が初めてスーツを買ったのは928でした。
それは高校を卒業したあたり?
----高校を卒業した後ですね。釜石南高校に通っていて、学校の帰りに三鉄(三陸鉄道)を待たなければならなくて、よく大渡町・大町の方に来ていました。ただ、若干申し訳ないですが、高校生の頃は、少し怖くて928に入れなくて……。北高の方々とかがたくさん集まっているイメージがあったので。
そうそう集まっていた。俺も北高だからね。
----北高生が怖かったわけでも、怖い店だってイメージを持っていたわけでもないのですが、普段会わない人ばかりが集まっているイメージがあって、入りにくかったですね。
当時、釜石南高校だと、応援団くらいしか来ていなかったからね
----学校を卒業した後、スーツを買う必要があって、928に入ったときに買ったという経緯です。
よく928を選んだね。量販店や有名なお店もあったでしょ? よくそっちを選ばずにこっちに来ちゃったね。928は、量販店や有名なお店のスーツじゃなくて、ちょっと個性が欲しいっていう人たちがよく来る店だから。
----確か初めて928に入った時で。その時にスーツが必要だと思ってるといった話をした記憶があります。そして、そのときに店長から紹介されてスーツを作った流れ。色が一色なスーツでなくて、縦のラインが入ったようなスーツでしたね
もともとそういうスーツが得意だったから。普通のビジネススーツじゃなくちょっと変わってるでしょ。
----すごくかっこよくて、今でも着ています。ところで、私が小学生くらいの頃から928自体はTVCMで知っていた記憶があります。
うちは、TVCMをずっとやってるからね。
----それで気になったのですが、928は、何年前くらいから始まったのですか。
928自体は昭和41年か42年くらいからやっているのね。 そして俺が入ったのはもっとずっと後。元々は自分の親がやってて、その時はほとんど外商屋さん。車で持っていって外で販売して歩くような。扱っていたのは作業服的なもの。そういうの販売してて、俺が20歳くらいのときだから、41年くらい前……1984年くらいか。
その辺りに製鉄所(日本製鉄北日本製鉄所、釜石製鉄所※現・日本製鉄株式会社)が大幅に人を減らすってなったでしょ。そうすると釜石ってところは、製鉄所の関連で家族とかが居て、人口の1/3くらいがそうした人たちで出来上がっているような町だったから。
はっきり言って、思い切り危機になってしまうでしょ。そのときに『助けてくれ』『どうしたら良いか分からない』『この店を助けて、何とかやってちょうだい』って親から連絡が来て。928はもともと外商とかで借金が多くありすぎて、会社も小さかったから、それで助ける形でここに入った。
俺はたまたま絵描きっていうか、看板やったり、いろいろ自由にやってきた人間だから、その感覚のままスーツやネクタイとかにハマっていって、そしたら、ネクタイの売れる店になったのさ。感性が変わっているから。
ネクタイっていうのは、メーカーが何千本と持ってきて、その中から100本ぐらいをきれいにひいていかなきゃならないんだよね。
そしてそれの内の大体70%から80%のネクタイを1 ヶ月の間に売るというパターンでやってくんだけど、普通の店に持って行くと簡単にネクタイを引いてもらえないのに、俺がネクタイをすごくきれいに引くことによって、そのメーカーがびっくりしちゃった。
『どこでそういう感性を創ったんですか』と言われて、たまたま俺がモーテルの看板みたいな変わった看板を描いてきたから、感性があるんだなって話をしていた。なんやかんやで、ネクタイが売れる店になった。
スーツの方はちょうど俺にとっては面白くないスーツばっかりやっちゃっていたから、『こんなスーツじゃダメだよ』って言って。そしたら。親がその時にたまたま100万持っていて、『2ヶ月で400万にできるんだったら仕入れてきてちょうだい』って話になったのね。
初めて任せるからって。そう言われて、できないっていうのが嫌だったから、やってやるわって話をして、スーツを仕入れに行った。結局、その仕入れをやって、 2ヶ月というか1ヶ月ぐらいでも400万円にしてしまって、そこからはスーツが強い店っていうことで、色々な人たちがどんどん集まってきて買いに来たりするようになった。
メーカーの方もスーツをすごく売ってくれる店っていうので、有名になっちゃって。で、その後数年経ったあたりに、GALFY(ガルフィー)やそういうもの(いわゆるオラオラ系ファッション、ヤンキーファッション)をまだ誰もやってなかった時に、俺は元々ヤンキーな人間だったからそういうのにハマっちゃって、じゃあ置いてやってみるかって話をして始めた。
その頃は、チャンプロードっていう雑誌ぐらいでしかGALFYを買えなかったから、928で売ってみるかって始めて、やってみたら大ヒットしてくれたのね。そして、色々なところから買いに来てもらって、買ってもらえるようになったのね。
それで、頑張ってやってきて、これからだったところに東日本大震災が来てしまった。せっかく親から寄越された借金を全部返し切っていい感じになってきた時に、津波に流されて、そしてもう一度、返したくらいの金額と同じくらいのお金がまたかかっちゃうようになった。
『この状況を打破するのに何すればいいかな』って思っていたら、千年に一度の津波って言われていた災害の後に、珍しく台風が来てしまって、津波でおよそ1億円の損害が出ていたところに、台風で300万~500万の損害が出てしまった。ただこうなると錯覚を起こすのね。1億円に比べると、300万~500万は安く感じてしまう。実際には300万円~500万円も大きいのさ。せっかくまだ復興しようとしてる時にだから。
そうして、状況を打破するためにこういうことをやっていこうかな思ってた時に、今度はMAD★STAR、THIRTEEN JAPAN、NATURAL NINEっていう三大オラオラファッション系ブランドをやっていたんだけど、それらがGALFY並みに売れたのね。オラオラ系ファッションを販売している店だからっていうことで、みんながこう来てくれてね。その後、GALFYが第二次ブームでまた流行ってきているわけ。
----MAD★STAR、THIRTEEN JAPAN、NATURAL NINEが売れていた時期、GALFYは、ブランドとして厳しい状況にあった頃でしたか
そうそう。その頃ってGALFYって言えば、指名手配されるような人が着るとか、悪い人が着るっていうイメージが出来上がってしまってて、芸能人で言えば竹内力が着るとか(※竹内力は指名手配をされるような悪い人ではないです。あくまで風貌の参考イメージとして語られています)。
その頃にMAD★STAR、THIRTEEN JAPAN、NATURAL NINEとかが売り切れるくらい売れていたのね。ここ最近は、ちょうどGALFYが上がってきている。今のお客さんっていうのは復刻大好き人間っていうか、昔の古いトレーナーにブランドロゴが大きく載っているようなブランドが好きな感じ。そうした流れにGALFYがハマってくれて、今一番の人気ブランドがGALFYなのかな。
それに連れ立って、PANDIESTA(パンディエスタ)が売れたり、WRINN(リン)っていうブランドが売れたり。GALFYのライバルのようになっている。扱っているブランドは、全部猫であったり、パンダであったり、モチーフが付いていて、そういうものが流行ってくれている。
その中で、『もう和柄は終わったのかな?』と思っていたら、和柄は和柄でまたファッションとしても残ってくれた。今、928では、19ブランドを扱っているんだけど、その19ブランドが全部だいたい売れるっていう感じになっているね。
----ネクタイから始まり、スーツ、GALFYなどのオラオラ系ファッションブランドといったものが売れ続ける中で、その要因に仕入れの上手さがあって、結果的に売れる流れが途絶えずに来ているのですね。
そう。928と他の店との仕入れ方の違いは、純粋に自分の着たいものしか仕入れないところ。よくあるお店は、着せるため、売れるように仕入れるんだけど、俺は自分が着たいと思わない限り、仕入れない。GALFYもね。こんな年だけど着るし。自分の好きなものだけを仕入れてきた。自分と好きなものが同じ人ってのはいっぱいいるはずだと思っているから。
それと他の店は、売れたら追加するみたいな形で商品を仕入れて店に置いているけど、928は違っている。たとえばGALFYは、GALFYの新作を多分ほとんど仕入れてる。そして、売れたら同じ商品を追いかけない。全然。売れたら新しいものを仕入れる。
----早い者勝ちになるのですね。
そう。東北で見ると、GALFYを扱っている店舗の数は多くないから。買える物が少なくなっていく。なのでお客さんが来てくれる。
----他に仕入れで意識していることはありますか。
置いてみて売れないんじゃないかなって思うものは仕入れないのさ。売れないんじゃないかなって思うってことは、お客さんに対して自信を持って勧められないということだから。これまでそういう時はなかったけど、今のところはね。
必ずその年ごとにあるからさ。売れるものっていうか、売れるだろうって思うものが。自分がね。928の店内を見てみると、俺が着てもおかしくないような服ばかり一杯あるでしょう。自分が好きな服だから。好きに勝るものねぇから。
----自分を好きを追求していった結果、売れる商品が集まり、928という独創的なお店もできたのですね。
かけ離れた人間だっていう風に多分思われるんだと思うんだけど、自分自身そういう人間だって思っていたし、そういう人生を歩むと思っていたから、もう逆にそれを売り物にして行った方がいいなって思って。店は変わってて、どちらかっていうとヤンキーぽいような店になった。でもそのやんキーっぽいような店にだって、ヤンキーじゃなくても、ヤンキーっぽいものを着たい人はいるわけだし、そんなお店に来たい人はいるわけだからね。
FASHION 928だけではない!不動産屋(大家)としても大成功する有限会社くにや商会に迫る
岩手県釜石市の928というと、オラオラ系ファッションを取り扱うFASHION 928のイメージが強い。しかしながら、地元で暮らす人々からするとそのイメージは50点くらいのイメージである。FASHION 928を運営する有限会社くにや商会、そして代表取締役の鎌田英司 氏は、釜石市内において数々の賃貸物件を所有する大家の大家として知られる。今回のインタビューでは、不動産屋(大家)としての928にも迫った。
東日本大震災による大津波で4棟の物件を流失。そこから928の不動産が復興できた理由
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