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親愛なるカラスたちへ

清水哲朗『トウキョウカラス』を見てきた。(展示は9月25日で終了しています) 展示を見ているときは、カラスを主役にした写真に囲まれた空間の心地よさに酔いしれたようになりながら、ちょっと涙が出そうになったりして、「なんだろう、これは」と思いながらも展示と同名の作品集を購入し、イマイチ現実感が乏しいフワフワした頭で会場を後にした。 喫茶店に入り、少し落ち着いた状態で作品集を見始めて、うまく言葉にできなかった感覚が解った――というより甦った、と言ったほうがしっくりくるかもしれな

    • 行かない理由を探している

      • 記憶の中の一冊

        『スピン/spin 第2号』「そして金魚鉢の溢れ出す午後に、」(恩田陸)と「絶版本書店 手に入りにくいけどすごい本」(酒井駒子)を読んでいて、ふと、ある記憶が蘇った。 それは朧気で、本当に現実だったのだろうか、とすら思うこともある遠い彼方の記憶だ。 小学校の高学年だったと思うのだが、友人と学校の図書室で「誰も読まなそうな本を探して読んでみる」という遊びをしたことがあった。 そこには本や作者に対する敬意などなく、どちらかといえば、そのような本を揶揄するような感覚だったと記憶し

        • 信頼できる言葉

          満面の笑みを浮かべ「落ち込んでるときに聴くと、ますます落ち込めていいぞぉ」と『The Dark Side of the Moon』のCDを貸してくれた高校時代の担任。 最近何かとこの言葉を思い出すことが多い。 巷に溢れている自己肯定感を高めるための書籍やらネット記事やらのせいだ。一時に比べたら減ってきた感はあるが――余計なお世話なのである。 落ち込んでいるときに肯定的なことを考え、鬱々とした暗闇を突破できる人もいるだろうが、できない人だっている。 無理やり自分を騙そうとし

          天も地も美しい積ん読の山

          天も地も美しい積ん読の山

          行間を読めない世界に未来はあるのか

          ある芸能人のYouTube生配信を見ていて、佐藤優著『未来を生きるための読解力の強化書』(クロスメディア・パブリッシング)を思い出した。 元外務省の外交官であり、対ロシア外交において情報分析を担ってきた佐藤氏は「相手を正しく理解し、適切に対応する力」を身につけるには「読解力」が必要であると言う。 そしてロジカル・リーディングとクリティカル・リーディングによって読解力を高めることで次の段階である「行間を読む」という行為ができるようになり、相手を正しく理解する力につながる、との

          行間を読めない世界に未来はあるのか

          ツイッターやめて電池が減らない

          ツイッターやめて電池が減らない

          もう諦めていると我に言い聞かせ

          もう諦めていると我に言い聞かせ

          いつの間にか姿を消す栞

          いつの間にか姿を消す栞

          伝わらない文章

          とある書籍の発売を記念して、自分の好きな本を画像とともにツイートする、というキャンペーンが行われている。 普段Twitterは見るだけで、よほどのことがない限り投稿しないのだけど(投稿しても一定期間経ったら消している)、誘惑に負け、最近発売されたおもしろエッセイ集について投稿してしまった。 参加者のツイートに対して、キャンペーンの主催アカウントがコメントを返してくれるのだが、自分のツイートへのコメントを見てスゥーっと血の気が引いた。 「大事なこと、なんにも伝えてないじゃん、

          伝わらない文章

          春は喪失の季節

          春は喪失の季節

          ハシボソガラスを先導するトラクター

          ハシボソガラスを先導するトラクター

          忘れられない言葉

          たまたまロシア――というよりプーチン大統領がウクライナに侵攻したタイミングで『海をあげる』(上間陽子著・筑摩書房)を読んだ。 沖縄の歴史は大雑把に知っていたけれど、現在進行系で沖縄に暮らす人の声をこれほど生々しく聞いたのは初めてだった。 沖縄にとっては、未だ戦後ではない。基地問題が長く人々の生活に影響を及ぼしている。 実際に戦争を体験していない、戦後生まれの沖縄県民であっても、本土の人間より戦争の記憶が身近にあるのだ、ということにようやく気がついた。 紛争や戦争という言葉を

          忘れられない言葉

          本は財産

          ひょんなことから見つけたこの記事を読みながら、彼女が又吉直樹『火花』の装幀家である、というのを見て「あっ!」となった。 たしか『火花』と『むき出し』は同じ装幀家だったはず、と『むき出し』のページを繰り確認すると[装丁 大久保明子]の文字。 『むき出し』は造本も素晴らしい。躍動感に溢れたカバーを外すと、雪なのか夜空の星なのか、静謐さと寂寥を感じさせる表紙が現れ、主人公の複雑な内面を表現しているような美しい本なのだ。 それもそのはず、大久保氏が過去に手がけた川上弘美『真鶴』は講

          本は財産

          追憶

          神妙な顔をした医師と看護師が壁際に立っている。 ベッドには見る影もなく痩せ細った男が横たわっていた。 まだほんのり温かい。 傍らに立つ女の表情からは感情が読み取れないが、涙はない。 女はいつも何かに腹を立てていた。怒りが彼女の拠り所になっていた。 物事の優れた面を見るよりも、批判をすることが当たり前だった。 それが他人の感情を害するとしても、自分の主義主張を曲げず貫くことが、格好いいと思っていた。 女の周りからは人々が去っていった。 口数は少ないが、穏やかでユーモアのある

          ジャミラっぽいハシボソガラス

          ジャミラっぽいハシボソガラス