忘れられない言葉
たまたまロシア――というよりプーチン大統領がウクライナに侵攻したタイミングで『海をあげる』(上間陽子著・筑摩書房)を読んだ。
沖縄の歴史は大雑把に知っていたけれど、現在進行系で沖縄に暮らす人の声をこれほど生々しく聞いたのは初めてだった。
沖縄にとっては、未だ戦後ではない。基地問題が長く人々の生活に影響を及ぼしている。
実際に戦争を体験していない、戦後生まれの沖縄県民であっても、本土の人間より戦争の記憶が身近にあるのだ、ということにようやく気がついた。
紛争や戦争という言葉を聞くたびに思い出す言葉がある。
「人に言えねぇようなことも、いーっぺことしてきたて」(人に言えないようなことも、沢山してきたよ)
テレビで第二次世界大戦の話題が流れていたのだったか――。
きっかけは定かではないが、どこにでもあるような家庭の夕食時に、どこにでもいそうな地元のお爺ちゃんが戦時中について語った言葉だ。穏やかな笑みを浮かべながら、静かにそう語るこの老人を前にして私は何も言えなかった。
そしてこれが戦争なんだ、と強烈に胸に刻まれた。初めて自分ごととして捉えることができた。
この老人は数年前に亡くなったが、第二次世界大戦で徴兵され、シベリアに抑留された経験を持つ。特に裕福な家庭でもなく、大きな力が後ろ盾にあるわけでもなく、ただの一般人だ。
自分と何も変わらない一般市民が武器を持ち、殺し合いをする。人に言えないようなことに手を染めてまで生きなければならない。それが戦争なんだ、とこの老人が教えてくれた。
戦争で犠牲になるのはいつも市井の人々だ。シリアもそう。ウクライナだってそう。そして沖縄。
どうしたらこの老人の言葉が為政者に届くのだろう。