もう一つの「つばなれ」に目が潤む。子守歌に込められた思い #最近の学び
母がお世話になっているケアハウスに顔を出した。
会うたびにいろいろなことを忘れている母だが、昔のことはよく覚えている。
幸いにしてボクが「息子」であることはまだわかっているらしい。
今日は、孫を背中におぶったつもりで子守歌を歌ってご機嫌のようだ。
「ねんねんよー ねんねんよー」
「かあちゃん。風邪引くぞ」
車いすから立たせて、ベッドに寝るよううながした。
「ゆーいち。あんまり揺らすな。孫がせっかく寝たとに目ばさますやろが」
「はい、はい」
ベッドに横になった母に布団をかけてあげた。
母は孫をあやすように片手で拍子をとりながら、子守歌を歌う。
「ひとーつ、ふたつ、みーっつ、よっつ。いつーつ、むっつ、ななーつ、やっつ。ここのつ、とう」
「つのつくうちは神さまっ子。いやいや、やっぱりうちん子ぞー。つばなれせんね、うちん子ぞー」
昔から伝わる「つばなれ」の子守歌だ。
ボクは母が見えない孫のことを「きくの」と呼んでいるのが気になった。そんな名前の子どもは知らない。念のために電話で確認してみた…。
※この文章は長崎県在住の漫画家・岡野雄一さんによる『ショートアニメ「ペコロスの母に会いに行くVer 1」 第10話 背中の児』をもとに書いたものです。
「つばなれ」とは
「つばなれ」は一般的に落語界で使われる言葉として知られます。
「一つ、二つ、三つ、四つ…」と数えていくと「九つ」まで「つ」が付いているのに、二桁になると「十(とう)」と「つ」がなくなるため「つばなれ」と呼ぶそう。
寄席でお客さんの数が二桁にのったことを「つばなれ」と表現したというから、囃家の隠語みたいなものでしょう。
最近では子育てや教育関係でも使われているようです。一部の小学校では「十」で「つ」が付かなくなることから10歳頃にあたる4年生は「自立のスタート。高学年の仲間入りをする学年」と位置づけています。
ネットで「つばなれ」について調べたところ、このような落語界と教育関連で使われる二つの解釈が主に見受けられました。
子守歌に込められた「つばなれ」の思い
まずは冒頭で書いた文章のもととなる、岡野雄一さんの作品(約3分)をご覧下さい。
昔は医学も今ほど発達しておらず、食糧事情も厳しかったため、10歳に満たない子どもが流行病で亡くなることが少なくありませんでした。
子どもを亡くした母親を「つが付くうちは神さまの子だから仕方ない。神さまにお返ししたんだ」と慰めるために考えられた子守歌ではないかというのです。
私は「つばなれ」のもう一つの意味を知って、やるせない気持ちになりました。
これが「#最近の学び」です。最後までお読みいただきありがとうございました。