最高の映画「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」について
デヴィッド・クローネンバーグ監督作品の中で、今まで一番好きだった作品はなんだろう?
「ザ・ブルード/怒りのメタファー」
「スキャナーズ」
「ヴィデオドローム」
「デッドゾーン」
「裸のランチ」
「イグジステンズ」
「ヒストリー・オブ・バイオレンス」
「イースタン・プロミス」
計8作品を見ていると思うけど、今までは「イースタン・プロミス」が一番好きだった作品かも知れない。
他作品も観たいけれど、まだ観れてないので、この熱が冷めない内に観たいと思う。
さて、今回のテーマ「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」だけど、短期間に同じ映画を見ることが少ない僕が2回観ているので、おそらくクローネンバーグ監督の作品の中で一番好きになった作品だと思う。
もしくは、刺さった作品だ。
ストーリーは結構わかりやすい。
舞台は近未来。
痛覚がなくなっていて、人体を切り開くアートというものが人気な世界観だ。
色々な要素が散りばめられている作品だけど、主人公が変化、もしくは進化を受容する物語だと思う。
散りばめられた要素が凄く強烈で、しかもそれが全て素晴らしいので、その要素だけを楽しむだけでも良いのだけど、ただのエログロだけな作品ではないと感じた。
僕の解釈なので監督の意図とは違うかも知れないけれど、最初のシーンで出てきた男の子は怪物ではなく、新人類、あるいは神のような存在であって、それを信仰している家族、周りの人々が狂ってしまい、それを温かく受け入れ、許せたただ一人の人物が、主人公なのではないだろうか。
主人公は、プラスチックなどの有害物質チョコを頬張ることで、悲しき家族に光を当てることが出来たと感じたし、その行為の向こう側に「食する」という行為の本質的な快感を見つけたという解釈をした。
僕自身、食事がただの行為で、それを楽しむことが出来ていないと感じることがある。
流動食のようなものを食べる時でなくても、白米や豚肉などを食べる時にどうしても作業感が出る時がある。
だから、主人公の食への憂鬱な感情は少しわかるし、これは年齢を重ねればもっともっとわかるかも知れない。
痛みを感じなくなった人類は、現在の情報過多な生活を送っている人々に重なるところもあるし、更なる刺激を求めて自傷行為、または人体が切り開かれる姿を見ることがアートであるという感覚も、過剰なものがエンターテイメント化していくことに重なるかも知れない。
でも、それを全て全否定するわけではなく、自分なりに「咀嚼して」「飲み込む」のがこの映画の素晴らしいところだったんじゃないかなと思う。
信仰のようなものに似ているかも知れないけど、僕の解釈で言うと、主人公は自分なりに今を受け入れた「進化した人」になれたんじゃないかな?と。
それを考えてみると、主人公以外は、結局変化を恐れて踏み出せないままの人が多かった気がする。
カプリースは変化に導くパートナーだった。
それに対して、ラングは新しい人類に対して固執しすぎた。変化をもたらす人物ではあるけど、家族という呪縛、これまでの社会の制裁からは逃れられなかった。子を殺してしまった母親の方が正常に見えてしまうほど、目的のために倫理観をなくしてしまったキャラクターだと思う。
ライフフォーム・ウェア社の修理係は掃除屋で、この映画の世界における執行人の役割だから、一番冷徹で一番暴力的な人たちだ。
この存在がすごく効いていて、社会の輪を乱すものを一方的に殺してしまう「進化反対」の思想がこの映画全体の緊張感だったのかも知れない。
それに対して警察は、正直何も出来てない。ソールを制御出来なかったし、問題と向き合おうともしてない。なんでそういうふうに描かれたのだろう?と感じたけど、これは単純に、あの警察官も迷っていたからじゃないかな?って思った。
変化、進化を受け入れることは出来ないけど、今までのままでいいのかもわからない。一番まともな、もしくは一般的な価値観で世界を観ている人間には、到底理解出来ないことだったのだろう。
長々と書いてしまったけど、この映画で僕はどの立場に立てるか考えてみた。
憧れるのはソールやカプリースのように、どうにかして自分で自分の存在の居場所を探せる人だけど、もしかしたら警察官に一番近いのかも知れない。
変わってゆく世の中で、刺激が足りずに多くを求める人々がいたとする。それを見ながらブツクサと悪態をつくしか出来ないのかも?
ただ、僕がプラスチックを食えるようになったら、絶対にみんなに見て欲しい。
僕の内臓がどのような色で、どのような機能を果たしているのか。
その時、初めて僕は「腹を割って」人と話せる気がする。
そんな希望に満ちた作品だな、と、僕は解釈して、すごく好きになりました。
当然、クローネンバーグ節全開で、グロテスクな機械たちも最高すぎて、脳が焼けてしまいそうでした。
この映画を劇場で観ることが出来て本当に良かった。
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