短編SF小説「エノトノム」 - 前編
遠い遠い宇宙の彼方の先に。まるでパラレルワールドに迷い込んだかのように、地球と瓜二つの、ある星があった。
そこでは人間…とはそこでは呼ばれていないが、人間のような生命体が、地上に文明を築いていた。そしてその生命体にも人種が存在していた。
その星の言語ではトイワホと呼ばれている人種は、
身体的には、すらりと長い足、どの人種よりも立派に前に突き出た大きい鼻、強靭な骨格と筋肉を比較的有しやすい。子供の頃からの教育の賜物でディベート能力に長けているものが多く、その文化からはっきりと物事を言うタイプの個体が目立つ。長い歴史の中では、中には優生学を元に自分たちと同じではない人種に対して差別的な行為を犯してしまう黒歴史の時代もあったが、その星のリーダーの中にはこの人種から選抜された人物も多く見受けられる。今ではその繁殖度合いはピークを過ぎたように思われ、人種別で人口比較をすると他の人種から差をつけられる一方だが、 現存する歴史文献の中では明らかに中心的存在となっている人種と言える。
他のクッラブと呼ばれる人種は、
比較的どの地域にも散在しており、人口統計的にとトイワホよりも多い。特筆すべきは他の人種の追随を許さぬほど身体能力、特に体のバネ、パワー、身のこなし等の運動能力が格段に優れている。この星にもスポーツを楽しむ文化が存在しており、メダリストにあたるレコード記録は多くの場合この人種から生み出されている。知能も優れている人種と言えるが、この星全体を俯瞰して見てみると、その格差が大きいことも特徴の1つと言える。トイワホと肩を並べるほどの偉人を多数この人種から輩出している一方、ある地域では栄養失調や貧困に喘ぐ人々も少なくない。この人種のもう一つの特徴としては音楽性に優れているところ。そう、この星でも音楽を嗜む文化が存在している。地球ではグルーヴと表現される、言葉ではなんとも形容しがたい心地よいリズム、メロディ、ハーモニー、共鳴を生み出す能力に長けている者がこの人種から見受けられることが多い。そしてこの星では他の人種との交流が非常に盛んで、その共鳴を生み出すために、もしくはそのための組織構成に非常に積極的であること。まるで地球とは違う異文化であるかというほど、人種間交流において枚挙に暇がない。
中編に続く