短編現代SF小説「ワクチンバッジ」①
人間を最も殺しているのは蚊なのだそう。
血を吸うついでに、マラリア・デング熱・黄熱病というオマケ付きで。
その数年間725,000人。
(ビルゲイツのgatesnotes.com参照)
ちなみに第2位は人間。人間が人間を殺している数が続く。年間約475,000人。
そして西暦20xx年。ついにそのデータが覆される時代がやってきた。
『私はワクチンを打ちましたマーク』を、
スーツの襟や、シャツの胸あたりにワッペンやブローチのように、またはバッグのキーホルダーとして身に着けるのが当たり前になった時代。
通称ワクチンバッジ。
今で言うところの、カラフルな円形のSDGsマークを付けているスーツを身につけている会社員の様。
逆に付けていないと、自粛警察の進化版である『ワクチン警察』によって、誹謗中傷の渦に巻き込まれる。
そんな時代に突入した中、実際にワクチンを打っていないのにもかかわらず、
ワクチンマークをつけている人が密かに存在している事が話題となり、ワイドショーを騒がせていた。
ワイドショーの司会が、コメンテーターに向かって、眉間にしわを寄せながら、高揚気味に言った。
「これが本当だとしたら許せませんよねぇ。」
毎度お馴染みのコメンテーターがすかさず答えた。
「これは由々しき事態と言わざるを得ませんね。耐えに耐え抜いた自粛期間は、緊急事態宣言解除後もウィルスがなくなったわけでは無いことは、今や小学生でもわかっています。
少し前までは、誰も彼もが外に出る際はマスクを手放せず、そんな人々の見た目も、心情も道連れにして、あっという間に新しい時代に突入してしまいました。
経済の専門家たちは簡単にV字回復と言いますが、現実はそう甘くは無いことに気づいているのは私だけではないはず。これほどの大打撃を乗り越える術を、これからみんなで協力して見つけ出さなければいけない、そんな矢先に!
耐えに耐え抜いた我慢の1年半を経て、ついに待望のワクチンが完成して、
そこから更に1年もの時間をかけて、
ようやくマスクのいらない生活が戻ってきたところだったのに。
こんな、ワクチンを打っていないのにワクチンマークをつけているようなふとどき者は、厳しく取り締まって欲しいものです。」
語気を荒らげていたそのコメンテーターから、カメラは司会者に移った。
ちなみに昨日、ゴールデンタイムにやっているクイズ番組で、ゲストとして出演していたそのコメンテーターは楽しそうにクイズを解いていた。
ちなみに彼はウィルス研究者でもなければ、経済学者でもなく、
数十年前に話題になったテレビドラマで人気を博した元俳優で、テロップにはタレントと表記されている。
司会がこう続けた。
「ほんとそうですね。では今回のリーク情報をもとに、番組が調べた結果浮かび上がってきた偽物のワクチンバッチをつけていたとされる人物をここで見ていただきたいと思います。」