短編現代SF小説「ワクチンバッジ」③
ちなみに大国同士の争いの影響で、特定のSNSはある大国内では使えない。政治的な理由で。
しかし10億人以上の人口を有するその国でもとんでもない数字が生まれていることだろう。
もはやその国の中で発生している数字に関しては確認することができない。
いや、もとい、このSNS時代、いかに隠し通そうとも、スマホを持つ人間は誰しもスパイになり得る。本気で見つけ出そうと思えば、そこまで手間を要さずに探し出せるだろう。
この時点でとっくに日本の人口の数は追い抜き、
様々な言語で、このニュースを多言語で批判し。
その後、聞き慣れたライバル国へのいつもの批判の火種となり、
その発言をテレビが掴み、スピーチしているその外国語の映像の上に、日本語で話すナレーターの声と字幕で覆い隠す。
唯一の救いは、読み書きできない言語は、何を言っているのか知る由もないことである。
嘘か誠か、その耳と目で捉えることができた言語でのみ認識する。例えその翻訳がでっち上げだったとしても誰もその真意を確認することはない。
このスキャンダルが発覚してから1週間が経とうとする頃。
そろそろあのワイドショーでも批判する角度がいい加減もうなくなってきていた。しかし、いかに視聴者が必要以上に不安に駆られることになろうとも、数字が取れる以上、番組側が止める理由もない。
視聴者は自らの感情を無駄に揺さぶられるために見続ける。見なければいいだけの話なのだが、人間は習慣の生きものなのである。
この間、他国でも同様に、ワクチンを打っていないのにバッジを付けたとされる人々が吊し上げられていた。
誰も彼もが、顔を押さえられたその写真の表情は、うつむき加減の暗い表情をしている。
我々人間は、誰しも明るい時もあれば、暗い時もある。電車に乗って出勤している時の表情なんて、大抵こんなもんだ。ただ、このスキャンダルの連鎖という背景ありきでのこの顔写真は、悪役としての印象を与えるのに絶大な効果を発揮した。
国際的なパンデミックがようやく収束に向かいかけた安堵の感情が芽生え始めた頃での、このワクチンバッジ問題は、人々にあの不安な日々の煩わしさと、エチケットが足りていない者へのイラつきに近しい白い目を再び呼び起こしていた。
その反動で暴動が起きた国もある。ちなみに暴動とワクチンバッジ問題に直接的な関係はない。いつもの見慣れた、お店のガラスウィンドウを割って商品を盗む、あれだ。
大抵、暴動のきっかけと、その犯罪行為自体に関連性はない。
収まることを知らない人々を再び包んだ恐怖と不安と抵抗の中。
突然、
写真付きで紹介されたワクチンバッチ問題の発端となったその人物が、ある1つの動画を投稿した。
驚くべき事実と共に。