2023年2月の記事一覧
ものすごくみじかい話 隣に越してきた吸血鬼ハンター
隣に越してきた吸血鬼ハンターが挨拶に来てくれて、「おろし生にんにく」のチューブをくれた。けっこう嬉しい。
ものすごくみじかい話 臓器培養用の
「いや~臓器移植用の豚を飼っていてよかった。これでお酒でだめになったわたしの肝臓も取り替えられるぞ~」
「こちらがお客様の豚です」
「ぼくの肝臓、大切に使ってね」
「うわーしゃべった。しゃべんないようにできませんか?」
「できません」
「ぼくの肝臓、大切に使ってね」
「うわー」
ものすごくみじかい話 串刺しマジック
串刺しマジックに失敗して本当に串刺しにされてしまう。
「ごめんごめん」
「ごめんじゃないんだよ。豚の丸焼きみたいになっちゃってるじゃん」
「オロナイン塗っときゃ大丈夫だから」
「オロナインにそこまでのパワーはないんだよ」
「大丈夫大丈夫。じゃ、二本目いくね……」
「いっちゃうのかよ」
ものすごくみじかい話 ブラックホールに
ブラックホールに吸いこまれたはずのルームメイト(ブラックホールというのは、宇宙にある黒いやつです)がひょっこり帰ってきて、朝から豚の角煮を茹で続けている。「ブラックホールの中は意外とふわふわしてたよ」とのこと。角煮はブラックホールに持っていって食べるらしい。自由だな。
ものすごくみじかい話 梅の香
梅の香を嗅ぐといなくなったあの子のことを思い出す。ひどい別れ方をしたけれども時間が経つともう少し違う可能性もあったんじゃないかって、そんなことを考えはじめるとやっぱり会いたくなってしまう。それで井戸に行って覗きこんだ。まだ居る? 元気?
「まだいるよ」
よかった。
ものすごくみじかい話 遠くの汽笛の音
隣に越してきた「深夜に聞こえる遠くの汽笛の音」が挨拶に来てくれた。「もしお嫌でなかったら、今晩からでも汽笛の音をお聞かせしますよ」と言う。ありがたい。深夜に聞こえる遠くの汽笛の音は、一瞬、魂があこがれでてしまうような気がするものね。
それでその晩もいつまでも寝つけずにいると、ふいに遠くから汽笛の音が聞こえてきた。あれはどこを走る列車の音なんだろうなと考えていると、だんだん眠くなってくる。きっと
ものすごくみじかい話 友達のフグくんは
友達のフグくんはおれにフグ調理師免許を取らせようとしている。友達を調理できるわけないだろと断るのだけれども「ヤマヒロくんが夜中に突然『こんな時間だけどフグが食べたいぜ』ってなったときに必要になるかもしれないでしょ」。だがおれにはわかっている。フグくんは自分自身をおれに食べてもらいたいという倒錯的な願望があるのだ。
おれはフグくんの頭をふぐふぐと撫でながら「そんなことは絶対にしないよ」と告げる。
ものすごくみじかい話 飼っていた猫が
飼っていた猫が女の子になって戻ってきた。ラブコメでよくあるけど現実に起こるとリアクションに困るなと思いながら「元気にしてた?」と尋ねると「人間になるのも大変だニャン」と女の子になった猫がしょんぼりしながら言う。そうだろうね。ごはんたべよっか。
ものすごくみじかい話 お化け屋敷で働いているお化け
お化け屋敷で働いているお化けと仲良くなって今度一緒にごはんを食べに行こうということに。待ち合わせ時間は丑三つ時。なんでこんな時間なんだろと思っていると「おまたせ~」とやってきたお化けは半分透けていた。「本物だったんだ?」「本物じゃないと思ってたの?」「演者の方だとばかり」「演者がお客と話してたら給料減らされちゃうでしょ」。そりゃそうだ。
それで朝まで飲んだ。「こんなに楽しいのは久しぶり」と言い
ものすごくみじかい話 彼女へのプレゼント
彼女へのプレゼントを買うために「販売拒否屋」さんに来たぞ
なにも売らないよ
そこをなんとか
「なにも売るな」がうちのモットーなんでね
けちんぼ
ものすごくみじかい話 弊社のゾンビくん
弊社のゾンビくん(わりと理性があるほう)にお使いを頼むことに。「この書類を先方に渡してくるだけの簡単なお仕事だよ」「がってんです」
だが夜になってもゾンビくんが帰ってこない。心配になって先方に電話をすると、受話器の向こうから『くっ、来るな化け物、うわーっ』というたぐいの悲鳴と銃声。
やがてゾンビくんがのこのこ帰ってきたので「ちゃんとお使いできた?」と尋ねると、「すみません、ちょっと噛んじゃい
ものすごくみじかい話 天井裏の忍者 バレンタイン編
天井裏に忍んでいる忍者がいやにチョコレートを落としてくるなと思っていると、「今日はバレンタインにござるよ」と流行りに便乗したようなことを言う。見ると確かにチョコの形をしたまきびしだ。「感謝の気持ちをチョコに込めたでござる」とのこと。ふざけるんじゃないよ。
仕方がないので全部回収して夜のうちに忍者の寝ている布団の周りにばらまいてやると、翌朝忍者の悲痛な声。
「ホワイトデーにござるか」
「そう」
ものすごくみじかい話 通称ウツボマンション
通称ウツボマンション、水族館とかにあるウツボがぎゅうぎゅうに入っている丸いパイプみたいな構造物の居心地がよさそうなので、中に入っているウツボを「ごめんね~」とどかして自分が代わりに入ってみる。すると確かにしっくりくるフィット感。ああ、なんだかいいなあ。自分はずっと前からここでこうしていたような気がするよ。
いつまでもここに落ち着いていたいな……。
ぼんやりとした水の音。きらきらと幻想的な気泡
ものすごくみじかい話 毎日自分の存在
毎日自分の存在が消えてしまわないかなと思う日々。そんなところに『消し屋』さんがやってくる。椅子に座りなさいと言われて「この布をかぶせて取り除いたときにはあなたは消えています」という。手品じゃん。でも消えるのかな。でも消えるといいな。三、二、一。はい。