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農園うしお(7月上旬特別号(田んぼの水管理と溝堀り))

こんにちは!

  noteでは防災士やら保育士だとかとのたまいながら、家庭菜園&米の兼業農家業の話の方が熱が高まりがちな(だめやろ!)私です。

 一昨日・昨日の土日も、ひたすら土手の草を刈ったり、畑仕事をしておりました。熱中症警戒アラートだとかなんだとか言われますが、それで休めればいいのですが…残念ながら休むわけにもいかないのが悲しいところ。

 防災士なんだから、そこは「不要不急の外出は控えましょう!」って言わないといけないところなのですが、この時期の農家にはなかなか適用が難しいところがあります。だって「要」であり「急」ですもん…(^^;)

 まぁ、私は好きでやっていることなので、体は多少辛くとも、気持ちは辛く無いんです。その分、ぶっ倒れるて迷惑をかけないよう、しっかりと対策しながらボチボチとやっております。

 最近は、上下ともクール系のタイツ&短パンで、ジョギングの人みたいな恰好&麦わら&長靴という、カオスな組み合わせがお気に入りです(笑)

 この格好の良い所は、暑さでヤバい時は、用水路の水を柄杓ですくって着衣のまま水浴びできる事です。普通にバシャーと、ずぶ濡れる感じで。ファンランのマラソン大会とかでも時々見る光景ですが、アレを田んぼの用水路の水でやっています。

 さて、農園うしおの特別号は「農家じゃないと分からないようなニッチなネタ」を中心にお送りしています。今回は、田んぼの入水・排水といった水管理に関することと、付随する作業の一つの溝堀りについてお送りしていきます!

水田にはいつも水がある…わけではない

 みなさんは田んぼというと、田植え前後のときの、一面に水を張った状態のものを想像する方が多いのではないでしょうか。また、そのイメージが強いことで、もしかしたら「水田はずっと水が入りっぱなし」だと思っている人も、いらっしゃるかもしれません。

 実際の水田では、水を入れたり、また逆に抜いたりを繰り返しながら、米(稲)を育てていきます。

多くの人が持つ水田のイメージ。ずっとこう…ではない(クボタHPより)

 一般的な栽培方法の場合だと、おおよそこんな感じで管理していきます。

田んぼの水管理(スタンダードなやり方)

①:田植えをしてから2週間~1月弱:浅水
②:①の後、約1~2週間:中干し(※1)
③:②の後、約3週間~出穂直前まで:間断潅水(※2)
④:出穂のとき、1週間程度:浅水
⑤:④の後、約3週間~1か月:間断潅水
⑥:稲刈りの約10日前頃~稲刈り:落水(※3)


※1:土に軽くひび割れが発生する程度まで干すこと。

※2:一度水を張ったのち入水を止め、水位が自然に下がっていくまで放置し、土が露出し表面が少し渇き始めたら再度入水する。1回のサイクルはおおよそ5日~7日程度となり、これを繰り返すこと。

※3:そのシーズン中の最後の入水が終了し、これ以上水を入れることがないという状態で水を止めること。

 これをパッと見て、みなさんどう思われるでしょうか?結構大変というか、面倒そうですよね?でも、面倒でもやらなければならない理由があるんです。(というよりも、これをやらなければ、もっと面倒になる…というのが実際です)

 そこについて、これから少しご紹介したいと思います。

根が水浸しになっても耐える稲

 水を張る理由はいくつかありますが、その前の大前提として、他の植物と稲の違いについて知っておく必要があります。それは、稲は「根が水浸しになっても耐える植物である」ということです。

 一般的な植物の多くは、長い期間根が水浸しの状態になると、根腐れという症状が発生します。これが発生すると生育が弱くなり、最悪枯れることになりますが、どうしてそうなるのでしょうか。

 植物が呼吸をしていることは良く知られているかと思います。また、小学校~中学の理科で、その作業は葉の気孔細胞を介して行われていることを学んだかと思います。

 ですが実際には、植物の呼吸は葉だけではなく、茎や根も含めた前身で行われています。もちろん、葉の気孔細胞を介して行うものが主であるのは間違いないのですが、気孔細胞がない(少ない)茎や根でも行われているのです。

つまり、根が長期間水浸しになってしまうと、根の部分が(完全にではないのですが、十分な、という意味で)呼吸ができなくなってしまうのです。

 一般的な植物の場合、土の上部での呼吸した酸素はそのままその近くの細胞で利用します。同様に、土の下部(根)で呼吸した分は、そのまま根の細胞で利用しています。一般的な植物は、酸素を根⇔茎⇔葉というような長距離移動をさせるのは、あまり得意ではありません。ですので、根で酸素不足が発生すると、そのまま根の細胞が酸欠で弱ってしまうのです。

 ところが、他の植物に比べイネ科の植物は、葉や茎で吸収した酸素を根まで運搬し、根の細胞に酸素を届ける機構が発達しており、根腐れに強い特徴があります。その中でも特に「稲(水稲)」はかなりその機構が発達しています。

稲の断面(農林水産省HPより)

 もちろん、「稲(水稲)」であっても、栽培期間中ずっと水を張り続けるとさすがに酸欠になってきます。これは逆の言い方をすれば、ある程度の長期間水浸しであっても耐えうる性質を持っているということです。米作りというのは、「稲(水稲)」このような性質があることを前提として、栽培管理を行っていきます。

なぜ水を張るのか?

 とはいえ、稲の生育だけを考えれば、積極的に水を張らなくても、育つことは育ちます。なぜ、積極的に水を張りながら育てるのでしょうか?そのメリットとは何なのでしょうか。

 全ては書ききれませんが、ここでは主なものを3つご紹介します。

①雑草と病害虫の抑制効果

 まず1番なのは、雑草や病害虫の抑制効果です。

 ほとんどの雑草は、種子から目を出す時や、根を成長させる時には、ほぼ必ず空気中の酸素を利用します。水を張ることで雑草の種子や根は空気から遮断できるため、これらの発芽抑制・成長抑制が可能となります。同様に、病気や食害をもたらす好気性菌や虫についても、空気と遮断することで抑制します。

 畑では、同じ場所で同じ作物を連続して作ると、その圃場に病原菌や害虫が偏って増えることにより、連作障害が発生しやすくなります。畑の場合だとこれを回避するために、極力同じ場所で同じ作物を作らず、年単位で畑ごとに作る作物を変更しながら、回転させるように作付けを行っていきます。(輪作といいます)

 その点、田んぼでは水を張ることで、これらの要素をある程度リセットできます。おかげで、稲(水稲)は連作障害が出にくいため、毎年同じ場所で稲を作っても大丈夫なわけです。

②水の保温効果

 次に保温効果です。

 稲というのは本来、南国の作物ですので、どちらかといえば高温を好む植物です。特に植え付けの初期では、夜に冷えることで、根の成長に必要な地温が不足するような場合があります。

 この時期に水を張る(※かけ流すと温度が下がるので、かけ流さずに溜める)ことにより、昼間の熱を水に蓄え、夜の地温低下を抑えたり、急激な温度変化のストレスを少なくし、根の成長を促すことができます。

※最近よく、米の高温障害というのが取りだたされています。それだけ聞いてしまうと「涼しい方がいいんじゃないの?」って思ってしまいますが、あれは稲穂が登熟するときに高温にあうことが問題となるものであって、稲の生育の後期部分にあたるところでの話です。また、それは可食部分の品質の問題であって、稲自体の健全性とはまた違った話です。基本的に、稲という植物は高温に強いです。

③栄養分・微量要素の調整効果

 水を入れる、あるいは抜くことによる栄養分・微量要素の調整効果についても無視できません。

 現代ではさまざまな化学肥料が誕生したおかげで、昔に比べれば、川の水由来の栄養素の重要度は高いわけではありません。とはいえ、そういった化学肥料は、作物が必要な主要な要素(窒素・リン酸・カリウムなど)については大量につくられているものの、微量要素と言われるものについては、すべてを網羅できているわけではありません。

 微量要素というのは「沢山はいらないけど、全くないと困るもの」だと捉えてください。農業ではよく苦土と呼ばれるマグネシウムや、硫黄、マンガン、モリブデンなど、こういったものが微量要素と呼ばれます。こういったものは、今の時代でもなお、山から流れてくる水に溶け込むものから供給されています。

 例えとしては適切ではないかもしれませんが、実際にこんな現象が報告されています。長い間化学肥料を主体とした栽培方法をやっている畑や田んぼにおいて見られるのですが、洪水被害にあったあとで、その後の生育が急に良くなるというものです。長年不足しがちだった微量要素が、川の氾濫により意図せず補給されたことによるものだと言われています。こんなことが実際にあったりします。

 また、水を張ったり抜いたりする行為には、逆に過剰な栄養分を流出させてくれる作用もあります。こちらは特に、現代の化学肥料主体の農法において重要です。過剰な施肥をし過ぎたとしても、水と一緒に流出してくれて、影響を軽減させてくれるというものです。

 このように、栄養分を補給させたり、逆に流出させたりすることで、ある程度の所まで調整をしてくれる機能があります。

なぜ水を抜くのか?

 今度は逆の話で、どうして抜くのかということについてです。

 ここでは主なものを3つご紹介します。

①根への酸素補給・根張りの向上

 これは上でもお話したところです。稲の根は、ある程度の期間の水没には耐えますが、とはいえ、ずーっと耐えられる…というわけではありません。

 水を張る利点を残しつつ、かつ、根にもある程度の酸素を供給するのにいいタイミングのやり方が間断潅水となります。ですので、稲を作る際の基本的な水管理は間断潅水となります。

 さて、植え付け後は浅水で管理しますが、その後に中干しという、ちょっと強めに乾かす作業を行います。土にひびが入る程度まで乾かしますが、こうしておくことで、その後に行う間断潅水の際に、根の付近まで空気が行き渡りやすくなる効果があります。

中干しの様子。少しヒビまで入れるのがポイント。(クボタHPより)

 またこの時、根に対して(わずかな)水不足というストレスを与えることによって、根が水分を求めてしっかり張ってくれます。

②微生物への酸素補給・ガス交換

 酸素が必要なのは根だけではなく、土の中の微生物たちも同様です。

 田んぼの中の微生物も、生きていく上では酸素を利用します。長らく水浸しの状況が続くと、微生物たちも酸欠状態になってしまいます。

 ここで少しタチが悪いのが、この微生物たちは酸欠の状態が続くと、メタンガスや硫化水素ガスを発生させます。稲作農家ではよく「ガス湧き」と表現されるもので、これが発生すると根張りが悪くなったり、収穫前に急に生育が悪くなる「秋落ち」という症状が出やすくなったりします。

ガス湧きにより、水面にあぶくが発生する様子。
この状態で水田に足を入れると、土の中からボコボコとガスが出る。
酷い状況では、メタンと硫化水素による悪臭が立つ。
(ブイエス科工㈱HPより)

 水を抜いて土の表面を露出させることによって、酸素の補給だけでなく、不要なガスを排出することができます。

③刈り取り時の作業性の確保

 これは主に、最後の落水の時の話です。

 現代の稲刈りでは、よほど小さな田んぼでない限り、刈り取りはコンバインを用いることが多いです。

コンバイン(クボタHPより)

 このコンバイン、悪路を走行する前提で、戦車のようにクローラー(キャタピラー)が付いてはいますが、あまりに圃場が柔らかすぎると、ぬかるみにはまり込んで身動きが取れなくなることがあります。

※そういう時は大抵、ご近所さんに加勢をお願いしたり、家からトラクターを持ってきて、ワイヤーかけて引っ張り上げたりします(笑)

 また、コンバインを使わず手がりするにしても、足元が悪いと作業性が段違いに悪くなり、いい事ナシです。

 刈り取りの時期から逆算して落水を始めますが、その後に悪天が続くなどして乾かない時もあります。そういう時は大抵最悪なパターンになることが多いです…(苦笑)

水張り・水抜き、どちらにも役に立つ「溝堀り」

 ここまで稲作における(スタンダードな)水管理のことを書いてきました。これらの事を理解したうえで稲作をすればカンタンカンタン♪…とはいきません。正直な所、田んぼの水管理というのは非常に難しいものの一つです。その最大の要因が気象要件です。

 分かりやすい所で言えば、「田んぼに水を入れたい時に、水が無い(少ない)」「田んぼを干したいのに、ずっと長雨が続く」ということなどです。雲の多い少ない、風の強弱でもガラリと変わります。実際にはなかなか理想通りにはいかないので、いろんなことに折り合いを付けながら、ベストにはならずとも、部分部分でベターな選択を繰り返し、積み重ねていくことになります。

 さて、この水張りと水抜きだけに関していえば、完全ではないにしろ、その効率を上げてくれる小技があります。要は、水を張りたい時に素早く水を張り、また、乾かしたい時に素早く乾かすための小技です。それがこの「溝堀り」です。

 やり方はいたってシンプルで、田んぼの中にいくつか筋状の溝を掘ります。外周部分のほかに、内側にも何本か筋を入れていきます。

掘った溝のイメージはこんな感じです。

京丹後市HPより

 この溝があることで、田んぼの中に高低差が生まれます。水を入れる時はこの溝から先に水が入ることで、水が届きにくい所にも素早く水が届きます。また、水を抜くときも、水が抜けにくい所の水分が溝に落ちて排水路まで届くので、田んぼ全体の乾きが早くなります。

 田んぼというのは広さがあるので、水を入れるにしても抜くにしても、均一には仕上がりにくいものです。圃場の中でも、乾き過ぎるところもあれば、ずっと水が抜けずドロドロしているところもあったりします。そういった圃場における水管理を、ある程度均一化するための手法が溝堀りです。

 鍬などでアナログに掘る方法や、手動の専用機械もありますが、なかなかの重労働です。ですのでこんな、エンジンで動く溝堀機(溝切機)というものがあります。見たことが無い人には、なかなかインパクトのある動画ですので、ぜひご覧ください!(笑)

 この時期、米農家はこんなことを考えながら、こんなことしています。少しでも興味を持ってもらえると嬉しいです♪(^^)
 

・・・おわり

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