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【超短編】ともだちじゃだめなの。

一緒にいる理由が欲しかった。

私の親友のともるは、掴みどころのない人だ。感情を隠すのが上手くて、私も何度も騙された。私が感情を押し殺せば「甘えていいよ」なんて言うくせに、自分は絶対弱みを見せないんだ。

だから、もっと近くにいる理由が欲しかった。恋人じゃなきゃ燈に触れることはできないし、もっと近くにいたかった。大好きな人だった。いや、過去形にしてしまうのはおかしいかな。今も大好きだ。

夕焼けを背景に燈を振り返る。田舎の駅は人がいなくて、まるで世界に二人だけになったような。このまま時が止まればいいのにと心から願った。夜景が綺麗だ。
「私、燈が好きなんだ。私と付き合ってください」
燈は感情を隠すのが上手い。
それでも、私少しは覚えたよ。例えばほら、そうやって少しだけ、ほんの少しだけ、俯いて唇を噛んでいる。悲しいときの合図。どうやら私は間違えたみたいだ。
悲しませたいわけじゃない。恋人になれないとしても、笑ってほしかった。そんな泣きそうな切ない顔じゃなくて、いつもみたいに歯を見せて笑ってほしかった。そんな顔をさせてしまって、本当に辛かった。今すぐにでも抱きしめたい。でもそうしたら、余計に負担になるだろうか。どうしたら燈を解ってあげられるんだろう。こんなにも大切で大好きなのに。

「ごめん、私智結ちゆとは親友がいい」
そう謝られてしまって、余計に惨めになってくる。
「私こそ、ごめんね」
謝りながら、頬を涙が伝っていることに気付いた。私のバカヤロウ、これじゃまた負担になってしまう。もう心配かけたくない、この場から消えてしまいたい。

「ともだちじゃだめなの?」
燈の放った言葉が心に突き刺さる。そうだよな。私がこうやって好意を押し付けるだけでも負担なのに、泣かれてしまったら余計に迷惑だよな。最悪だ。私がストレッサーになってどうする。
私は意を決して踵を返すと、思い切り地面を蹴った。お気に入りのシャンプーの匂いがした。高校生のとき、燈にいい匂いがすると言われたやつだ。私の日常にはこんなにも、燈が溢れているのに。燈にとって私は、友達以上でも以下でも無かったのか。

ともだちじゃだめなの。私はもっと燈を知りたいし近くにいたい。友達という大勢いるうちの一人じゃ、あなたの特別になれないじゃない。一番近くで支えたいのに。

大好きだ。でももう、終止符を打とう。
燈を困らせる人間なんて、この世からいなくなればいいのだ。
最期まで迷惑かけて、ごめんね、燈。

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