シニメ

生きてしまうひとたちへ。

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マガジン

  • 夢現の狭間より。

    フィクション

  • 恋愛小説「水彩紙」シリーズ

    実話から始まった、私とあのひととの恋愛小説「水彩紙」のシリーズまとめ。表紙は全て私作。しばらく書きません。

  • 天使とともに。

    親友同士のミナトとカナデの、カイロみたいなお話。触れるのは温もり、待ち受けるのはゴミ箱。 1話:泣いた日 2話:落ちた日 最終話:死んだ日

  • あなたへ。

    おすすめの記事。お気に入りの記事。

最近の記事

【書く】染まる

朝晩七時にお題が届く執筆アプリ「書く」より お題:染まる 「東京に染まるなよ」と言われた。 上京して約半年。実家の自室よりも狭いワンルームで、ふとそのことを思い出す。 そう言ったのは誰だっけな。家族だったか、友人だったか、親戚か、東京で出会ったクラスメイトか、はたまたネット上の知り合いか。 「東京はいいぞ」という言葉は聞かない。少なくとも私のまわりでは。私も「東京はいいぞ」と思っていたのは、最初の二ヶ月くらいだった。 利便性は人を急かす。強欲に、我儘に、自己中心的にさせ

    • 【書く】傷跡

      朝晩七時にお題が届く執筆アプリ「書く」より お題:傷跡 左腕に無数の傷がある。自分でつけたやつ。 たぶん、もう、一生消えない。 はじめて切ったのは五年ほど前。その一番はじめの傷が消えていないから、もう消えない気がしている。 でもそれでいい。このぼろぼろでくたくたになった左腕が、また綺麗でまっさらな右腕みたいな状態に戻るのなら、私が部屋の隅でこぼした涙は、一体全体何になったのだ。あのとき私が沢山傷付いた時間を、誰が思い出してくれようか。 十八歳になった。 十八歳になってか

      • 【書く】手

        朝晩七時にお題が届く執筆アプリ「書く」より お題:手 自分の手、手相が薄い。 骨がごつごつしているところとか、指が細くて綺麗なところとか、好きなところは沢山あるけれど、その中でも、手相が薄いところが割と好きだ。 手相が薄い。 占い好きの友人や親戚に、これはわからない、と突き放されてきた手。 運命に縛られまいと、叫んでいるみたい。 たとえば、宝探しに行くという明確な目的があれば、宝の地図は必須だろう。だけどもこの人生、どう生きてどう死ぬか。明日にはもう生きていないか

        • 【書く】速度

          朝晩七時にお題が届く執筆アプリ「書く」より お題:速度 花が落ちるスピードで歩いていくーー米津玄師「paper flower」の歌詞。 花が落ちるスピードは秒速5センチメートルだ、というのが通説のようで、それを題材にした映画もあった。 秒速5センチメートルって、意外と速いなあ。でも、人間の歩幅にしては遅い。 いまの私が、ベッドの上で天井を見つめたまま、日々を過ごしているから、速く感じるのかもしれない。 食パンは秒速0センチメートルだ。 首振り扇風機は秒速5センチメートル

        【書く】染まる

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        記事

          【超短編】かみさまのルージュ

          ーーかみさまは死にました。 日曜の昼。いま思えば、何かの凶兆のように真っ青な快晴だった。春先だというのにアスファルトが燃えるように熱かった。転んで膝をついたから知っている。運が悪かった。 ぼんやりと眺めていたSNSで人身事故のニュースを見た。夜中に眺める過剰摂取じみたジャンクな情報。画面外に流そうとして、太字表示された文が指を誘った。あっ! ファッション誌「Rouge」のメインモデル シャシャが昨夜に自殺 ダークモードの画面に薄く自分の顔が見える。心臓が急速冷凍されるよ

          【超短編】かみさまのルージュ

          【短編】海を崇拝

          確かに僕は言った。きみを独りになんてしないと。きみはちょっと目を離したら消えちまいそうだったからね。たとえるなら何だろう、風船かシャボン玉か。いや、やっぱりきみはきみでしかない。 「自然の法則なんてものはなくて、すべて神様の気紛れだと思う」 きみが呟いた言葉を知った喉が勝手に答えを紡いだ。 「そうでなければ、こんなに海は綺麗じゃないよ」 ねえ、僕はもっとキザな台詞でも探せばよかった?どれだけ丁寧に扱っても、僕らが愛と呼んだものは酷く脆くて仕方なかった。 きみはどこからを嘘に

          【短編】海を崇拝

          【短編】海の欠伸

          世の中のすべてを知った気でいた。勿論そんなことはなくて、それを知っていながら、すべてを知った気でいた。 だって、誰かが定義した青春はワンパターンで、どれも一言で片付けてしまえるような、冷たい心の奥底に沈めて、何重にも鎖をかけて永遠に見ることもない、そんなもの。二番煎じの人生を歩んで、捨ててきた感情の名前も知らず、罵詈雑言を言い合って死ぬ。どうせ、そんな世界だろ。 「いつまで斜に構えて生きていくつもりなの」 そうからかった君に私は言うんだ。 「死ぬまでさ」 私が太宰治を読んじゃ

          【短編】海の欠伸

          【短編】シーラカンスの背骨

          愛で世界を救えるらしい。馬鹿だよ、それでほんとうに世界が救われるなら、僕みたいな捻くれた人間なんてとっくにいなくなっている。骨になったら残りもしないのに、愛だの心だのが皆は好きだ。 で、そういうのは強がりで、結局あのひとに惚れちまって、だって、中途半端な優しさでひとを弄ぶような、美しいひとだったから、なんて、これもまた言い訳で。 あのひとは優しいんだ。とっても。他人の痛みを己の前でだけでも最小限にしようとして、結局己が痛い思いをしている。あんな、すべてを背負い込んでひっそり

          【短編】シーラカンスの背骨

          【短編】白薔薇

          爪。あのひとの爪。長くて綺麗に磨かれているでしょう、それはもう恋人がいるひとの爪なの。だから、あたし、それが叶わない恋だなんてのは初めから知っていたの。 悪く思わないで頂戴ね。あたしがあんたを一番に出来ないこと、ちゃんと話してあったでしょう。そうしてあんたもそれで、うん、それでもいいや、と、しっかり頷いてくださったでしょう。こうしてあたしがあのひとの話をしていたって、あんたはもう泣かないでしょう。だって、あたし、それでもちゃんとあんたが好きなんだもの。 嗚呼、そうやって全部を

          【短編】白薔薇

          【超短編】消しゴム顔(再投稿)

          2022年06月05日投稿作品 「毎週ショートショートnote」企画 お題は「消しゴム顔」 ーーああ、この顔には表情がないばかりか、印象さえない。特徴がないのだ。たとえば、私がこの写真を見て、眼をつぶる。すでに私はこの顔を忘れている。 「人間失格」の四文だ。顔だけ消しゴムで消されたように何一つ浮かばないような、そんなことがあろうか。十歳の少女は一旦、本を閉じて考えた。 たとえば、顔を触ってみる。ある。確かに、額が、眉が、眼が、鼻が、頬が、口が、ある。鏡の中の少女は粋な笑

          【超短編】消しゴム顔(再投稿)

          【超短編】檸檬と鞦韆(再投稿)

          2021年03月21日投稿作品 まだ蕾のままの花を抱えて、僕は歩き出す、夜明け前ーー。 あなたの香りがした。 何も嘲るもののない無機質な部屋。透明な四角に夜景が映る。もう、今夜は終わる。 とうとう帰って来ませんでしたね。わかっていたけれど淋しくて堪らない。どうせ僕らはこれきりの関係で、小さい子を出鱈目な玩具で弄ぶくらい安易な設営なんだ。さらさらのシーツがいやに冷たい。あなたがいないから。 僕は二歳の頃にはブランコに一人で乗れていたらしい。となると今の僕はそれ以下だ。あ

          【超短編】檸檬と鞦韆(再投稿)

          【小説】切れかけ電球逃避行

          貴方はいつだってそういうことを言う。頼り方も愛され方も慰められ方も知らないあたしを、何度だって抱きしめて同じことを言う。 「僕が愛してあげるから、まだ死なないでよ」 と。 あたしは別に自分がこの世で一番不幸なんだなんて言ってるわけではないんだ。ただ、苦しくてもう息も吸えないような夜に一人になっちまうのが耐えられないだけなんだ。あたしは何も知らなかったから。 「どうして向日葵と太陽は恋仲なのかな」 「どうしてって、そういうものなんだよ」 貴方は心底興味なさそうに吐き捨てる。貴方

          【小説】切れかけ電球逃避行

          【超短編】偽善のキューピッド

          恋愛小説「水彩紙」没案 サイドストーリー はじめて天使に出会ったと思った。 入学式で隣の席になった少女はまるで、この世界の理不尽さによって私達が息をしているという哀しい秘密を、たった一人で背負っているかのような、そんなひとだった。猫背にだらしないポニーテールが飾らない美しさを演出して、私は今までどうやって友達を作っていたのかを忘れてしまうほどに。 その彼女、高崎さんはどうも本を読むのが好きらしく、休み時間には喧騒を傍観するようにオブラートの中にいる。一人で、けれども淋しそう

          【超短編】偽善のキューピッド

          【超短編】コレクション

          2022年4月3日執筆 不恰好な爪先が、女のパーカーの袖口から覗いている。目深に被ったフードを軽く持ち上げながら、女は近寄ってきた。項垂れた私の前で立ち止まったその女は、気持ち悪いほど甘ったるい笑みを浮かべて尋ねてくる。 「お嬢ちゃん、行くとこが無いのかい?」 無いわ、こんな駅前に座り込んで泣いている小娘なんて、家出少女くらいじゃないの。 心の中で蔑みながら女を睨む。現実逃避もいいところだ、隣町に来てみたってエスケープ出来るわけじゃ無いのに。冷たいアスファルトにももう身体が

          【超短編】コレクション

          【超短編】セピア

          たとえば、私がそのひとのうなじをじっと見つめていたらそのひとがうなじを隠してしまったりとか、そこにある林檎を見つめていたら誰かが拾い上げて買って行ったりとかして、本当は視線というものが目に見えるのかもしれないと思ったりする。それを信じて誰かを、なにかを見つめてみたりする。 窓の外は薄く赤に染まりかけているのに、ここだけ切り取られたようなセピア色の世界。古びた商店街の雑貨屋で、弟の手を引き立ち止まる。店主がいない。 オルゴールが歪んだ音になっていきやがて止まるそのときに、私は一

          【超短編】セピア

          【小説】水彩紙、紫

          前作はこちらから↓ 死にたいな、と思った。 君をあたしの隣に居させてしまって、あたしはどんな顔をしていたらいいのだろう。君を彼女さんと別れさせて、一緒に地獄に堕ちてくれる?なんて台詞を吐かせてまで、手に入れて。すごく最低で残酷なのに、幸せだなんて思ってしまって、死にたいな、と。 「天音さん?」 大学の図書館で机に突っ伏しているのを君に見つけられてしまった。“一緒に地獄に堕ち”たあの日以来、初めて会った。高校からの仲のくせにどう接すれば良いのか分からなくなって、顔を背けたま

          【小説】水彩紙、紫