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【超短編】クルミの化石

「カムパネルラは死んじゃったんだねえ」
静かな列車の中、隣に座る彼女はぽつりと呟いた。酔い止めの薬を飲んでまで車内で本を読むほど本好きの彼女。その手には「銀河鉄道の夜」が開かれている。
「ずっと友人じゃいられないって切ないね…」
彼女が目を伏せた。

親友である彼女と私は名古屋のほうで育った。けれど大学が東京のほうにある為、東京に部屋を借りて2人で住んでいた。大晦日の前日である今日から年末年始の休みで、一度帰省することになり新幹線に乗っている。
「ねぇ、わたし達は、いつまで一緒なのかな」
誰に問いかけるでもなく、またぽつりと彼女は呟いた。見ていなくてもわかる。これは私に答えを求めていないときだ。
しばらくして、彼女が私の手を握ってきた。白くて冷たい、血の気のない手。昔から変わらない。
「わたしは、親友でいてもいいの?」
私は黙って彼女の手を握り返す。彼女が驚いた顔でこちらを見るのを待って、私は静かに言葉を落とす。
「私はいてほしいよ」
「迷惑じゃない…?」
「迷惑だったら、今ここにいないよ?」
「でも、わたし、きっと、ずっとあなたに依存しちゃうよ。どうしよう」
彼女の涙腺は脆い。今にも瞳が揺らいで壊れてしまいそうだ。
「大丈夫だよ。依存していても、自立していても、私は変わらず親友だよ」
彼女はふっとため息を吐く。そしてありがとうと私に礼を述べた。何故彼女が礼を言うのか私にはわからない。私がずっと親友でいたい、ただの我儘なだけなのに。

「ねぇ、今年はわたし、あなたを困らせてばかりだったね」
そんなに時間もかからず名古屋に着いた。約1年ぶりに故郷の空気を吸い込んで、彼女は私を振り返る。
「困らせる?そんな覚えはないけど」
「そんなことないよ。沢山わがままも言っちゃった」
「我儘なのは私も同じだよ。それにそれくらいで困ったりしない。私がお前と親友でいる以上、そんなことは断じて無いね」
「本当?信じるよ?」
彼女が腕を絡めてくる。寒いねと呼吸のように言って足踏みをした。
「私はこれから先、たとえ不幸せが爪を研いで待っていたとしても、ずっと親友でい続ける自信があるよ。だから、来年もよろしく」
少しかっこつけて柄にもないことを言って、本当に困らせているのはどっちなんだろう。照れたように笑った彼女は、次の瞬間、苦しいほど清々しい青空にピースサインを突き上げた。
「どっちもジョバンニだー!!」
朝焼けが2人を嘲笑う。嫉妬すればいい、太陽よ地球よ月よ。私と彼女2人に敵う2人は他にいないだろう。それだけ私には、彼女を大切にする自信があった。
ねぇ、2人で銀河鉄道に乗れた日には、永遠にクルミの化石を拾っていたいね。

宜しければ。