「若草物語」というタイムカプセル
小学生の頃、新古書店が現れはじめた。新本を潤沢に買い与えられる金銭的余裕があるわけではなかったのだろう親は、わたしや妹をその新古書店に連れていき、娘たちが気に入った本を買ってくれた。(スペース的な問題もあるため、基本は図書館通いだったけれど)
そのうちのひとつが、青い鳥文庫だ。特に気に入ったのが「若草物語」で、続編が3冊あると知ったわたしは、「続きを読みたい」と親に熱望し、新古書店で見つけられなかった残り3冊は新本で買い与えてもらったと記憶している。
その後、小学校の図書館に同作者、オールコット氏による別の物語があったことを知り、そちらにも手を伸ばしたけれど、そちらの作品名はなぜだか覚えていない。あまりハマれなかったのだ。訳書がずいぶんと古い版だったのも関係しているのかもしれない。(やたらと古びた布張りのものだった)
若草物語は、メグ・ジョー・ベス・エミーの4姉妹の物語だ。わたしはふたり姉妹の長女だから、メグの姿に姉特有の嫌な部分を見つけては複雑な気持ちになったり、エミーの末っ子ならではのわがままっぷりに本気で腹を立てたりしていた。お気に入りはジョーとベスで、ベスに対しては「こんないい子には到底なれやしない」と尊敬と憧れが混じる思いを抱いていた。
そして、ジョーだ。ジョーは男の子みたいなさっぱりした性格で、読むこと・書くことが大好き。あまり「こうだから」と外からの価値観に捉われることがなく、自由にふるまっている姿に、たまらない憧れを感じていた。書かれた時代が時代だから、「淑女たるべし」な価値観が垣間見える作品ではあるのだけれど、大人になって読み返してみても、やっぱりジョーはいいなあと思う。
子どもの頃、家には漫画がなく、少女漫画はアニメでしか触れられていなかった。そんなわたしにとって、若草物語はある意味で「初めて読んだ少女漫画的なもの」だったかもしれない。お隣に住むローリーにときめいて、ジョーとの関係性の変化にじたばたしていた。それは、その後読み始めた少女漫画でも変わっていない。(しょっちゅうじたばたしている)そして、物書きとして成長していくジョーに憧れてもいた。
それにしても、あらためて読んでみると、第1作目はベス16歳、ジョー15歳、ベス13歳、エミー12歳、ローリーも16歳になる前の15歳なんだなあ。ベスやジョーはすでに働いていたから、子ども心にやけに大人に思えていたけれど、15歳……。ちょっと驚きだ。
小学六年生のときの担任である恩師と、よく本について話す機会があった。卒業後に書いた年賀状でもそうしたやり取りをしたことがあり、ある年には「時間を経て再び読むと、感じ方の変化に気づけて面白いですよ。先生は高校生の頃には〇〇が好きでした」と書いてくださったことがある。子ども時代に好きだったものを、大人になって読む。新鮮で懐かしくて、ささやかだけれど贅沢な時間と体験だ。
と、同時に、当時抱いた感情を生々しく思い出す部分もあって、「ああ、読み込んでいた本ってタイムカプセルなんだなあ」とも実感している。新しい本を読むのもいいけれど、過去を引っ張ってくるのもまた(空恐ろしくて)心楽しいものだ。