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詩ことばの森(61)「寒い家」
寒い家
寒いので
部屋にとじこもった
生姜湯をすすりながら
考えるともなく考えた
いったい いつから
この家は寒くなったのだろう
昔 おやじが言ってたっけ
おれは北国育ちだから
トウキョウの寒さなどへいきだ
おまえは弱すぎるから
へータイにいったらすぐしんじまうぞ
ぼくは北国はしらないし
へータイにいくどころか
受験戦争中だったので
おやじの話には空返事していた
おやじはいつも赤ら顔で
すこぶる健康自慢だったが
へータイにいって帰ってきても
病院からは帰ってこなかった
いつのまにか
時計はお昼をさしている
今ごろ妻は
老人ホームに行って
認知症の母親に
会いにいっていることだろう
少し日が出てきたらしく
鳥の声がきこえてきた
子どもの巣立った家に
親ばかりが古巣に住んでいるのは
人間くらいなものだろうか
ぼくはいつまでも
閉じこもってはいられない
これから食料を調達しにいくのだ
人間食べなけりゃしんじまうぞ
生姜湯を飲み干しながら
ぼくは そう思った