マガジンのカバー画像

せつなときずな

47
母子家庭に育った主人公の少女が、紆余曲折の末息子を持った後、思わぬ苦難に人生が変貌していく。 その中で互いが苦悩する母娘のリレーションシップを描いた連載小説です。 ラストで物語が…
運営しているクリエイター

2021年9月の記事一覧

「せつなときずな」第32話

「せつなときずな」第32話

サキは運転しながら、今日のことを反芻している…

名古屋の中区の正木町にある美容院「hope」に刹那を連れて行った。
店の名前は、マスターがUSオルタナバンドのマージースターのファンで、シンガーのホープ・サンドヴァルが好きだからという単純な理由なのだが、サキはそのアーティストを知らないし、興味もない。
店に貼られていた彼女のポスターを見て、刹那は「こんな感じが…」と小さく呟いた。

髪型が、ではな

もっとみる
「せつなときずな」第33話

「せつなときずな」第33話

ストライプの型板ガラスが嵌まった真紅の框扉を開けると、「黒猫」の美緒が妖艶な微笑で刹那を迎えた。
「白猫」時代の、無印良品のコンビを着ているかのような清楚なお姉さんの姿は、そこに微塵も無い。
黒のベルベットの生地のノースリーブのワンピースは、「華麗なるギャツビー」のヘップバーンを思わせたが、金髪のショートボブにブラックパールのピアスを纏う小さな顔は、なかなかに挑発的だ。

刹那は美緒に負けず劣らず

もっとみる
「せつなときずな」第34話

「せつなときずな」第34話

昨夜は何も言わず警察から刹那を連れて帰り、母屋に預けていた絆と一緒に自分の部屋に泊まらせたサキだが、それは、刹那の気持ちを落ち着けさせてから話を聞くことを優先しようとの判断だった。

翌日、刹那に代わって絆を保育園に送ったサキは、事務所には行かず、自宅で仕事を処理しながら刹那に話を聞くことにした。

「殴った相手は誰?」

「濱田美由」
刹那は、サキが淹れたアールグレイの入ったカップに目を落としな

もっとみる
「せつなときずな」第35話

「せつなときずな」第35話

曖昧な気持ちのまま、「黒猫」の美緒さゆりに電話して謝らなければと思いつつ、刹那はどうにも気が引けて連絡できない。

そんな刹那の気持ちなど知るよしもなく、絆はいつも通りレゴやら怪獣の玩具を部屋に拡げては夢中になって、童心の一人息子は可愛いかったはずなのに、心のどこかに「どうにかしてやりたい」などと不穏な感情を覚える自分に愕然としたりする。
もともと育児に積極的ではなかった公彦だが、それでも保育園に

もっとみる
「せつなときずな」第36話

「せつなときずな」第36話

その日は普段着のまま、ノーメイクで絆を連れて「黒猫」を訪れた。
刹那にしてみると、先日騒ぎを起こしてしまったことで、わきまえた身なりで謝罪すべきだと判断してのことだった。

ベージュの少しレース地のキャミソールに、ちょっと色落ち気味の紺のレギンスを履いた自分の姿は、正直、美緒さゆりに見せたい姿ではなかった。
シンデレラは結局灰かぶりのみすぼらしい女でしかなかったし、かぼちゃの馬車はそもそもバツイチ

もっとみる
「せつなときずな」第37話

「せつなときずな」第37話

サキは刹那から「黒猫」でアルバイトすることを事後報告で知って、珍しく後悔をした。

パートナーの田辺裕道の意見を尊重したかった訳ではないが、そこで迷いが生じて、刹那にハートスタッフへ復帰を促すことを躊躇してしまった。
「黒猫」がどんな店かも知らなければ、美緒さゆりがどんな人間かも知らない。
いや、大体において、娘といってもすでに成人で子供もいる母親に対し、子離れしてない自分も歯痒いのだが、かといっ

もっとみる
「せつなときずな」第38話

「せつなときずな」第38話

実家から帰る道は、なんだかぼやけて見えた。

せつなは「黒猫」のシフトが無い日曜日に、サキに呼ばれた会見に臨むことにした。
想定内のことと、想定外のこと、どちらも自分に深く関わることだったが、後者の方がずっと多く、それを理性や感情の中で整理することに困難を感じていた。

唐突といえば唐突だったが、「あなたがお店で働くって話の方が、私には唐突だったわ」とサキに言われた。
お母さんにとっては、決して唐

もっとみる