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あんな教授?こんな教授? part.1

医師を採用する手段として、大学病院の医局から派遣をしてもらう方法があります。そのためには、大学教授の許可と指示。その指示を受けた医局長の采配が必要になります。既に派遣を受けている医局の教授には、盆暮に手土産を持参してご挨拶に伺います。

「いつも大変お世話になっております。引き続き、医師の派遣をよろしくお願いいたします」

医局秘書を通じてアポイントを取り、失礼のないよう、毎年2回ほどご挨拶で訪問します。通常、事務長が訪問することが多いですが、院長と同じ医局である場合(とりわけ地方大学)は院長も同席して訪問します。
私が所属していた大手医療法人グループでは、グループとして長いお付き合いであったり、多くの医局員を派遣していただいている大学病院には、本部としてもご挨拶に伺っておりました。

私は本部の医師採用部門におりましたので、併せて、就任したばかりの事務長に同席して教授訪問もしておりました。(本部幹部の指示があり、一人で行かせるには不安がある場合等において)

おかげさまで多くの教授にお会いする機会があり、当時30前半の私が本部の代表で教授とお会いすることも多々ありました。
その中には個性豊かな方も多く、非常に人間の出来た方もいらっしゃれば、傍若無人で偉いだろと言わんばかりの教授もおりました(笑)
(私も偉そうに評価できるような人間ではありませんが…笑)

今回は、そんな教授をご紹介してみたいと思います。

Part.1 某国立大学の脳神経外科の教授

当時M&Aで、ある公的病院をグループ化した際に、その病院の大半がその国立大学の医局派遣に完全に頼っておる状況で(地方だとよくある話ですね)、順番に各医局の教授にご挨拶に伺っておりました。

その病院は政令指定都市の主要駅から徒歩10分以内の好立地で、急性期病院として長く運営してきましたが、経営自体が非常に悪く売却に至った経緯があります。

このような急性期病院の経営改善には、診療科の幅を広げ、立地を活かした救急対応を強化していくことが集患には効果的な施策の一つです。
救急を強化するにはこの病院に足りない診療科があり、それが「脳神経外科」でした。

医療機関にお勤めの方、医療関係者であればすぐお分かりになると思いますが、救急対応を行うにあたって脳神経外科がいないということは致命的です。
なぜなら、交通事故、転倒、転落などなど、救急車で運ばれてくる外傷として、最も多いものの一つは頭部打撲です。
腕や足をぶつけても死ぬことはありませんが、頭部打撲は後々になって死亡事故につながることもあり、頭部を打った場合は必ずケアしなくてはならない重要な外傷です。
それを専門的に診て判断できる診療科は脳神経外科以外にありません。
(救急を断る理由の上位であり、頭部打撲がある患者の連絡があると、脳神経外科医が対応できない病院はほぼ断りますよね)

内科・外科・整形外科は既に医師が在籍しており、そこに脳神経外科が採用できれば、緊急の手術対応ができなくても、一次診療として鑑別診断を行うことができます。
そしてその後、自院でカバーできないものは大学病院などの3次救急へ転送してより高度な医療へ繋げていく流れとなります。

「それなら初めから大学病院が救急を受ければいいのでは?」という声も聞こえてきそうですが、この病院が救急を強化する意味が大きく2つあります。

  1. 大学病院のような3次救急病院に患者が集中することがないよう、適切な医療を必要な患者に適切なタイミングで提供できるようにするため

  2. その1次救急を受けることで診療実績を上げることができ、経営改善につながるため

綺麗事のように聞こえますが、大切なことです。
実際には何でもない症状(軽い症状)でも救急車を呼び、タクシー代わりに病院に行く人もいます。これは最低の行為です。
(救急車も限りがありますし、本当に必要な一刻を要する方に救急車が間に合わなかったらと思うと、絶対に止めていただきたい行為です。)

発熱したらすぐ病院。頭が痛くなったらすぐ病院。
そのような人が大学病院に溢れてしまったら、いくら応召義務があるからといっても全て対応はしていられませんし、生き死にのかかった患者を見逃してしまうリスクもあります。
(発熱の患者さんは3次救急ではなく、まずはかかりつけ医もしくは2次救急の病院へ相談をするべきですが、一般の方に病院ごとの役割がわかりづらく、浸透させるにはまだまだ医療側の努力が不足していると思います)

そのため、2次救急指定病院が受け入れを拡大していくことで、3次救急の本来の役割を全うできる環境を整える手助けができます。
(救急隊にきちんと自院の受け入れ可能な症例を伝えることが大切です)

他方では、患者の母数を増やすというメリットがあります。
2次救急指定病院が救急患者を多く受け入れることで、救急処置や緊急入院などが発生し、自院の経営に大きく寄与することは言うまでもありません。

特に入院リソースを増やすには、外来・紹介以外は救急受け入れでいかにベッドを埋めていくかが重要な役割を担います。
この点も救急を強化する大きなメリットになります。


本題に戻りましょう笑

その脳神経外科をリクルートするにあたって、ある医師の紹介がありました。
その医師は近隣の国立大学医局出身者ですが、退局しており、医局派遣のない田舎の病院に勤務されておりましたが、より都心で手術を行える環境に転職したいとのことで当院の希望と合致しました。
院長・事務長も大いに期待して喜んでいました。

しかし大学医局というのは一筋縄ではいかないところです。
当然“筋を通さないと”いけません。
(関東圏ではそんなこと必要ありませんが…)

早速某国立大学の脳神経外科の教授にアポイントをとり、自院の院長・事務長と3人でご挨拶に伺いました。

某日、大学病院に到着します。
当院の院長はこの病院の出身で、診療科は違うものの年齢はその教授より10年くらい先輩です。
当然、教授室までの道のりもご存じで、院長の先導で案内していただき、脳神経外科の教授室まで足早に歩いて行きました。

到着すると医局秘書にご挨拶し、しばらく待ったのちに教授室に通されました。
教授は室内にいらっしゃり、高そうな椅子から重い腰を上げるように立ち上がりました。
近づいてきた教授に、まずは院長が「〇〇病院で院長をしています△△です。」と挨拶します。
続け様に、事務長・私と名刺をお渡ししてご挨拶をしました。

そこで、私たちは驚愕しました!!


なんとその教授は、私たちから受け取った名刺をゴミ箱の方に向かって投げ捨てたのです!!


私や事務長は事務屋なのでこのような扱いは慣れていますが、院長はこの大学の出身で教授の10期上の先輩にあたります。
どれだけ失礼かは言うまでもないですよね。

「この地域で勝手な事をしないでもらえますかね!」

要するに、大学病院の目と鼻の先で、医局に背を向けた医師を雇用し、さらにオペ症例を持っていってくれるなという“圧力”ですね。
(M&Aも地方新聞に掲載されるくらいですので、関東の医療法人が乗り込んできたようにも感じていたのではないでしょうか)

こちらとしても喧嘩するつもりで来たのではありません。
退局したとはいえ、今回の医師については同郷で育ったお作法は同じですし、難しい手術は大学に紹介したいので、連携していきたいと言う思いも込めてご挨拶に伺った次第です。

怒り出してもおかしくない仕打ちを受けても院長は我慢してくれました。
M&Aで経営が代わり、赤字を脱却し、今まで通り大学病院と密な連携を取りたいと丁寧に説明してくれました。(素晴らしい対応でした!)

最後は少し冷静になったのか、渋々「わかりました」と言って、教授との面会は終わりました。
(事務長も私も一緒にご説明をさせていただきましたが、この類の方は事務屋の話は全く聞こうとしてくれません笑)


なかなかのインパクトのある面会でした笑
ここまで権力というか既得権というかを振りかざしてくる教授は、今の時代には珍しいとは思います。(省略しましたが、他にも多くの小言というか暴言というか、たくさん言われてます笑)

もちろんそれだけの努力・実績を求められ、厳しい教授選を勝ち抜いて国立大学の教授になることは凄まじく大変な事で、まさに上り詰めた権力の象徴なのかもしれません。
その地域で開催される学会では大会長を務めたり、退官後も派遣先の院長になることも多く、専門学会内でも「元教授」の肩書は死ぬまで続くのだと思います。

しかし、苦労して上り詰めたTOPだからこそ、それまでの苦労や権力に押しつぶされそうになった過去も含めてご自身が精算し、後進にそのような捻じ曲がった権力を継承しないように「今の立場という権力」をご使用いただければ良いのになと、部外者ながらに思う次第です。

役職などは、その責務を負う方に対し、その責任の重さに対して処遇が高くなり、周囲の人間も敬意を表するものだと思います。
決して、その役職が神様でもなければ王様でもありません。

一国の大統領でさえも、その国の代表として選出され、その執務を全うしている存在に過ぎません。
国の代表として厳しい決断と責務に対して、国民は期待し、尊敬し、自分たちの代弁者として委ねているのです。

おっと!話がまた遠くに行ってしまいそうですね笑

教授室を離れた私たちはどっと疲れが出てくるのを感じつつ、人間性に問題のある教授では医局員も可哀想だなと思いながら、帰路に着いた私たちでした…笑


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