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わし、教授。

どうも。わし、大学の教授。
今はオンライン授業の3コマ目で、ちょっと疲れてきておるぞ。

腰も痛いし目も疲れるし。その割に学生からの反応は無いしで、やりがいも今一つなんじゃ。もー、やんなっちゃうわい。


……のう、学生諸君よ。どうせ大して聞いてないんじゃろう。今日の講義、結構わしが喋る時間ばっかりって感じだし。そもそも3限目って眠いわな。お昼食べたばっかりだもん。わしも眠たい。ねていーい?



さっきミュートが外れたとき、「〇〇(わしの名字)おじちゃんは当てないからラク」とか何とか、聞こえとったぞ。回線の調子が云々ってことにして、聞こえぬふりをしたが。そこだけやけに鮮明だったわい。

ぼやきってのはのう、案外聞こえるんじゃぞ。わしも若いころはそれで色々やらかした。これは対面でもオンラインでも変わらんな。なんで伝わらんでも構わない話ほど、相手には伝わるんじゃろな。


悪口とか文句というのはすごいな。心をこめなくたって相手に響くんだから。大したもんだ。
そんでもって「愛してる」とかは面倒じゃな。そういう大切な言葉の方が、心をこめていてもゴチャゴチャと疑われてしまうのだから。素直に受け取れないことも多いしな。困ったもんだ。


話がそれたな。わしの心の中だから、どうでもいいんじゃが。



どこかの君……君はわしを「当てないおじちゃん」と言っとったな。

うん。確かにわしは君たちを「当てないおじちゃん」だ。誰か一人を指名して答えさせるというのは、あんまりしないおじちゃんだ。ジジイじゃなくておじちゃんという言い方なあたり、まだ嫌われては無いんじゃろうか。愛嬌が滲む呼称だったから、実はちょっと安心したぞ。


名指しで当てるというのはな、やられる方も嫌じゃろうが、やる方も結構しんどいんじゃ。特にこの、パソコン越しとなると。

だって……もしな、授業を聞いていない学生を当ててしまったらと、考えてみんしゃい。当てられた学生は当然何のことやら分からんから、「すみません、もう一度言っていただけますか」って、言うじゃろう。

それがな、それを言われるのがな、怖くて怖くて当てられんのじゃよ。

自分の話が聞かれていないのは、まあ重々承知というか、もはや仕方のないことだと思っちゃっとるのじゃが。それをいざ言葉にされるってのは、なかなか応える。それはもう「露骨」だから。傷つくから。わしは「当てないおじちゃん」では無い。「当てられないおじちゃん」なんじゃ。


だって自宅なんて、お菓子があってお布団があって、ネコさんがいて、天国みたいなもんなんだから。ふつー寝ちゃうじゃろ。だから授業なんてな、そんなつまらんもん聞いてられるかいって。な。「オンラインのおかげで家でも勉強ができます」なんて、やる気と元気のある時以外、メリットでも何でもないわな。わしも家に仕事は持ち込みたく無い派じゃ。まったく本当に、お互いさまじゃな。


はあー


とにかく学生諸君、反応をおくれ。今もずっと独り言を話し続けているみたいでな、寂しいんじゃよ。いくら好きなことを話しているとはいえ、流石に相手は欲しいから。リアクションボタンだけでは、感情が分からん。

反応が無いと、つい自信が無くなってしまってな。ひょっとしたら嫌われているんじゃないかなんて、そんな事まで色々考えてしまうのだよ。だから追いつけないくらいの言葉や動きが欲しいんじゃ。今度からニコニコ動画で配信しようかの。



数百のレポート添削に資料作りに研究に、反応の無い授業。全部全部、好きで手に入れた、有難い環境。一応教育者だし、文句を言えたもんじゃ無いのじゃが……正直、毎日狂いそうだ。

こんだけ作業があるのに、向かうのは全部光る画面一つ。異常じゃよ。異常すぎて異常とも思わなくなってきているが、とにかく目の疲労が凄まじい。これ以上ブルーライトを浴びたら、わしの目玉の方が発光し始めるかもしれん。実際そうなったら面白そうじゃな。写真を撮って、授業資料の末尾に載せて、皆の反応を見てみたいな。



不気味じゃな。


学生諸君よ、煩わしい願いかもしれんが、早いとこ対面授業になるといいな。こんだけ家にいる時間に慣れると、お互い大変じゃろうが。身体はだるくても、心にはその方が良いんじゃよ、きっと。


対面授業と言えば、授業の最後のスライドになった瞬間、ペンケースとか鞄とかガサガサしてご帰宅の準備をする子が時々おるな。色々なモノをしまう音が一斉に聞こえてくる、「早く帰りたい」が露骨になる、あの時間だ。

あれも心がキュってなるから、出来れば、なるべく、やめとくれ。いや、どういう風に授業を受けるかなんて、誰もが自由なんじゃがな。わしは……どうしても「露骨」が苦手なもんで。


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