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2024年7月22日 「シャーリー・ホームズとバスカヴィル家の狗」感想 ネタバレあり


さて、Audibleで聴いた、第1作「シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱」が大変面白く、

すぐさま次作をダウンロードしました。
(聞き終わってからその記事を上げるまでにかなり時間があいています。)

5時間55分と聞き始めやすい!、
「シャーリー・ホームズとバスカヴィル家の狗」
その感想です
今回も気をつけてはいますが、それでもネタバレをしてしまうと思いますので、
読んでも聞いてもいない方は、ここでブラウザバック、記事を閉じてください。
せっかくの性別逆転ホームズパスティーシュ、もし少しでもご興味がおありなら、感想を読む前に、ぜひ本作を読むか、聞いてください。
読了、聴了して、自分以外の人の感想が読みたい方はそのままおすすみください。


「シャーリー・ホームズ」シリーズ2作目


高殿円さんの「シャーリー・ホームズ」シリーズの2作目です。
1作目の感想はこちら。

こちらのシリーズ、1作目はロンドンオリンピック(2012年)が行われたロンドンを舞台にした、主要な登場人物のほとんどが女性のホームズパスティーシュです。
シャーロック・ホームズは、人工心臓を持ち、電脳にダイブでき、パライバトルマリンのような青い瞳、雪のように白い肌と血のように真っ赤な唇、血管の透けた頬を持つ、顧問探偵のシャーリー・ホームズになっています。
原作での助手、ワトソンは、アフガンの軍医上がりのアラサー女子、メアリー・ジョセフィン・ハリエット・ワトソン、通称、ジョー・ワトソンに、
ホームズの兄、マイクロフトは、妖艶な女性で、英国政府の能吏である、ミッシェル・ホームズ、通称マイキーに、
レストレイド警部は、東洋系のシングルマザー、グロリア・レストレード警部に変更されています。
1作目はシャーリーとジョーの出会いから、ロンドンオリンピックの最中に起きる緋色の憂鬱事件までのお話でした。
キャラクターの造形(特にジョー・ワトソンの)、驚きのトリック、そしてエピローグが非常に気になる終わり方であったことから、2作目も聴くことにしました。

シャーリーとジョーの仲の深まり


ジョーはすっかりベイカー街221bに馴染み、そして、シャーリーを現実に繋ぎ止める一助となろうとしています。
男性同士の恋愛ではない深い絆や友情はブロマンスと呼ばれますが、
女性同士は何というのでしょう。
しかし、女性として生きている人の多くは、シャーリーとジョーの関係性が特別仲良しとは思わないような気もします。
女性同士って、わりと世話を焼き合うものなのです。
お互いの得意分野をいかし、苦手分野をフォローするというのが自然にあります。
特に歳を重ねれば、重ねるほどそういうものかもしれません。
ジョーは非常勤の医師の激務をこなしながら、赤毛組合の軽食を食べ、シャーリーに声をかけたり、起こしたり、そういう毎日を心底楽しんでいるように見えます。
ベイカー街221bに食事用エレベーターが取り付けられているのですが、
これは誰の提案で、誰の差金なのか、それを考えるだけでも、短い物語ができそう…と感じてしまいました。
姉のマイキーからのプレゼントなのか、ジョーがぽろりとこぼした一言をシャーリーが拾ってのことなのか、それとも…。

モリアーティ教授(その部下も)登場


今回は、名前だけでなくてホームズの宿敵たるモリアーティ教授が登場します。
原作の性別を逆転したパスティーシュですから、教授も女性です。
ミステリ小説における、女性ってこれまでわりと紋切り型が多かったのだなぁとこのシリーズを読んでいると思います。
女性だって千差万別なのだから、ありとあらゆるタイプがいたって良いのです。
私にとっては、今のところ、今作のモリアーティ教授は新しいタイプの女性敵キャラクターです。
ヒステリックでない、刺々しくない、変に男性的でない、意地悪でない、狂乱していない…、
もっとシリーズが深まってくるとそういう面も描かれるのかもしれませんが。
今回もまた、自分の中に当たり前のように搭載されている思い込みを感じました。

ジョーの親戚登場


前作で聞き逃したのか聞き間違えたのか、勝手にジョーの「おばさん」は高齢だと思い込んでいました。
介護の必要なくらいの年齢、70歳くらいかと…。
どこをどう聞き間違ったのでしょう…。
「叔母は調子が良くない」とジョーが面接で答えていたからでしょうか。

ジョーの叔母、キャロル・モーティマーはもっと若く、そして、はつらつと恋愛を楽しむキャラクターでした。
キャロルの明るい性格はジョーと重なるところがあります。
ジョーはキャロルのハッピー粒子(のろけ)に文句を言っていますが、ダウントン・アビーやアウトランダーを見まくっていた人が、貴族の称号を持つ男性と恋に落ち、結婚するとなったらああもなるというものです。
だって、ドラマの中に入っていくようなものですから。
先日、イギリス、チャールズ国王夫婦主催の晩餐会の準備動画をみましたが、圧倒される内容でした。
貴族の称号を持つ男性と婚姻するということは、そこに連なるということでもあり、キャロルも興奮するというものです。
ジョーは「いいなぁ」と羨ましがるのですが、
本当にジョーは「結婚」や「夫を持つこと」を求めているのだろうか…とも思いました。
ジョーが求めているのは、「安心」と「安全」であって、異性愛、さらには結婚というのはその付随物でしかないのではないだろうか、と感じます。
ジョーは自分を恋愛至上主義のように(シャーリーも)いうけれど、それは本当に恋愛を求めているということなのでしょうか。
深読みしすぎでしょうか。

ロンドンから離れて歴史ある土地を大冒険


今回は被害者が1人、いや2人ですが、歴史ある土地の秘密も解き明かしていくお話でした。
旅情ミステリ(果たしてそんなジャンルがあるのか?)といっても良いでしょう。
クリームティーが美味しい、デヴォン州に電車で、行きたくなりました。
殺人事件の謎解きはもちろんですが、魔犬伝説の謎解き、地域の歴史の謎解きがより、興味深かったです。
若い頃、京極夏彦先生の洗礼を受けた身としては、地域の伝承がただのファンタジーではなく、歴史的な事実が裏打ちされているというのは、個人的に非常に好きな展開です。
そして、日本も英国も、歴史がたくさん眠っていて、直接的にせよ間接的にせよ、現在まで力を持っていたりするのだなぁと感じました。

やっぱり信用できない語り手


私はこのシリーズの真の主役は、タイトルにない「ジョー・ワトソン」だと思っています。
設定もりもりの美女、シャーリー・ホームズに目を奪われては行けません。
シャーリー・ホームズと共にいる時の、ジョーは、年齢相応か、その年齢より若い女性はきっとこうだろう…と世間が思う思考をしています。
綺麗なもの(シャーリー)や甘いもの(ハドソン氏の作るパンケーキ)、美味しいもの(フォーやコロネアルチキンサンド)、マイキーから送られてくるブランドものを喜び、恋愛に憧れる、若い女性。
しかし、田舎で夕焼けを眺めるジョー、
病院で昔の上司に会った際のジョーは、
そういう明るく可愛い部分は抜け落ち、もっと、無感動でやや冷たくさえ覚えました。
ジョーが語るジョーだけが、本当のジョーなのか?、
ジョーは信用できない語り手なのではないかと疑っています。
ジョーは戦争のトラウマだけでなく、
幼少期のトラウマもあるようですし、
人前で見せる(特にシャーリーの前で)ジョーだけが、ジョーではないような気がします。
ここだけの話、シャーリーにとってのラスボスがジョーだったらどうしようと心配しているのです…。
勘繰りすぎでしょうか。
個人的にはこのシリーズのジョー・ワトソンというキャラクターがとても好きです。
ジョーに比べると、シャーリーって、わかりやすい人間な気がします。
シャーリーは持っているものは特殊、でも、感じていることは読者でもなんとなくわかります。
一方、ジョーは、読者として、時々、感じていることがわからなくなります。
ジョーは、何を感じているのか?、掴めなくなる瞬間があるのです。
トラウマのせいでしょうか…。
しかし、そこが、このキャラクターの魅力でもあるのです。

次作も期待


早く次の作品がAudible化しないかなぁと思っています。
次はとうとう、ジョーが結婚するようです。
きっとジョーの過去についてももっと掘り下げられることでしょう。
タイトルからすると「ボヘミアの醜聞」のパスティーシュのようなので、さらに楽しみです。


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千歳緑/code
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