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2024年6月18日 降雨時のみの哲学者

今日は夜中から雨が降ると言う予報でした。
もしかすると警報も出るかも…と言うことだったのですが、
目覚めてみれば注意報しか出ていません。
警報と注意報にはかなりの威力の差があります。
どちらが出るかで、公共交通機関や仕事が止まったり振替になったりするのです。
雨足は強いものの、
確かに予測されていたほどではないようです。

新緑に雨がけぶっています。
新鮮な緑色に薄く霧がかかっていて
明るさが和らげられています。
水墨画のようなにあわい、筆致です。
空と山の境目には薄灰色の雲が敷き詰められており
すこし毛羽立っているので、
和紙のような風合いです。
向こうの山は影にしかならず、稜線も霧に溶けています。
一方、手前にある木々や建物は雨にぬれてくっきりと際立っています。
それを眺めている自分、その間にある道路を通っていく
紺色のトラック。
トラックの濃紺が目に留まり。
どこへくのだろう、そしてそれを運転しているひとはどんな人だろうと
考えます。
人生で、おそらく、直接出会うことがない人のことを考えています。
その人の人生、
家族はいるだろうか、
そしてこれまでの生き方は、
何を楽しみにしているだろうか、
何を心配して生きているだろうか、と考えます。
そこまで考えて、運転席に座っている人を
男性と思い込んでいることに気づきます。
いやいや女性かもしれません。
子どもがいて、夫がいて、実家の両親とも交流があるような
そういう女性かもしれません。
綺麗にまつげパーマを当てた女性かもしれないし、
ヒョロリとした猫背に寝癖がついた若者かもしれないのです。
もしくは、白髪を短く刈り込んで日に焼けた男性かもしれません。
直接出会うことはないので、どれが正解かはわかりません。
どれでもあり得るのです。
シュレディンガーのトラックです。
中に居るのは誰でもあり、誰でもない可能性があります。
そうです。
そもそも運転席には誰も乗っていないかもしれません。
怪談めいた話でなく、自動運転のトラックである可能性だって
0ではないかもしれません。

体内を巡る血管のように
思考が今この瞬間の、世界のあらゆるものの、
あらゆる可能性に行き渡ろうとし、
あるところまで行って、諦めます。
人間の限界です。
そして、跳ね返って、反対側へ疾走を始めます。
今度は
もしかすると、
ひょっとして、
この世界は絵なのではないだろうか、などと思うのです。
どこにもそれぞれの人生などなく、
全て、舞台背景のような、ただの絵なのかもしれないと。
子どものころ、
本当はこの世界は
大きな誰かの人形遊びの世界で
自分も動かされている人形の一つなのではないだろうかと妄想し
そして半ば確信していたことを思い出します。
「自分が楽しんでいるりかちゃん人形と
自分自身も同じ存在だとしたら、
(おそらくそうなのだろうけれど)
だとしたら人生って何だろう」
と言うようなことを考えていました。
その頃は今以上に
夢見がちで、現実感が薄かったものですから、
ひどく厭世的になっていたことを思い出します。
生活というものがことごとく無駄であるような
そういう気分になっていたのです。
家事を母にやってもらって、本ばかり読んでいたので
そういう結論に達したのだと思います。
生活がない理論はどういたっても、机上の空論です。

今、人生経験を重ねて、当時の自分に言えることは
「これが現実でも現実でなくとも
二次元であっても、三次元であっても
自分が人形であってもなくても
1度は
目の前の生活をきっちりやれ」ということです。
「生活をやる」ということは
トイレや風呂の掃除をし
ゴミを捨て、
スーパーに行き、
料理を作り、
その洗い物をしてふきんでふいて収納し、
掃除機やクイックルワイパーをかけ、
洗濯をして干し、取り入れて、収納する、
家庭菜園に水をやり、虫を駆除する
という日々の営みのことです。
我々が絵で、人形で
巨大な何かの意思に翻弄されたり蹂躙されたりするとしても
日々の営みをやらなくてもいいということにはならず、
むしろ生活を通してしか到達できない境地があるような気がします。
本読んで、思考をこねくり回して辿り着く先とは
また反対の、境地です。
自分が人形かもしれない、絵かもしれないという答えのない不安に打ち破れるのは
「生活」なのです。

そんなことを考えながら、遠くを眺めていたら
雨が止んだようです。
その後、空は晴れ渡り、
太陽はギラギラと輝き始めました。
眩しい光とすっきりとした青い空。
オレンジ色の美しい夕日が沈んでいきます。

そうすると、先ほどまで考えていた、哲学もどきの思考はあっという間に消えてしまいました。
哲学的思考が深まりやすい気候と言うものがもしかして、あるのでしょうか。
何にせよ、降雨時のみの哲学者は、もういなくなってしまったようです。
また次の雨でお会いしましょう、私の中の哲学者。



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