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水のしるし 〜 Homage to loop of repeated water



海底の奥に 本当は光に通ずる扉があるように
あなたしか知らないはずの森の奥に 永久に枯れない泉がある
七つの夜明けに一度 その波紋の中心から 光り輝く玉が生まれる

命が見守る朝 玉の産声と微笑みの輪が森に広がる
森の女神は その額に水の標を刻み
東へ北へ南へ西へと 刻み分かち 宙を覆い包むまほろばとなる

露の音の雫が昇るように
白い龍が時空を抜けて

見上げてごらん いま霧が晴れてく


透き通る碧き泉に眠る時間
それは久遠の調べ
命が生まれ 命を伝え 水のしるしを継いで

絶やしはしない
森を守る民は 水の標を球体に成せる指を持つという
それはそれは優しく

女神は 時を預かる鳥に姿を変えて
民に叡智を映し続ける


しるしを証しに月光は青い夜を照らすから
星影で笑うように あなたは眠りにつく

そしてまた 朝が訪れる


森は生きている

しるしを照らし続け 透き通る青に会いに行こう


旅人は明日の方向へ歩けば歩くほどに
森から来た事も 森に帰ることも いつのまにか忘れていた

足から疲れ 腕も肩も擦れるように いつしか丸くなり
痛みも消え去り 沈み また浮かぶように 変容を重ね
旅人は 堅くひび割れた“まる”になっていた


森を抜け 地の果てに着いた頃には
風化し 粒となり 大気が粒子を運び去り

大粒の涙が そこには残っていた

揺らめきながら 煌めいていた

果ての先を見ていた



長い少年期の終わりを告げる鐘が鳴る
白馬が草原を翔ける残像が風に運ばれる

水のしるしを継いだ指先は 遠い岸から訪れる洛陽を指し
遥かなる潤いの涙に いま虹が渡ってゆく

球体を包む やわらかな青


時を預かる鳥が羽ばたく

鐘が鳴る


そして旅人は“しるし”となった



思い出す事ができていた

瞬きする間に 幾億もの時が流れていった

一が小となり 無が限りある永久に大となる
大が小を覆い 小が大を生む

女神は告げた 森を守るようにと

玉を分かち合い いつか またひとつとなることを約束していた


森の民は 天を指差し 万物は水に還る



水の球体の中の出来事

水に浮かぶ 星 月 果ての岸までのすべてに

その球体は 青に包まれ
すべては満ち溢れている


海底の奥に 本当は光に通ずる扉があるように
あなたしか知らないはずの森の奥に 永久に枯れない泉がある
七つの夜明けに一度 その波紋の中心から 光り輝く玉が生まれる




【輪 ~ 寄せては還す水の“loop”へのオマージュ】

20091118 20:40






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