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大学授業一歩前(第104講)

はじめに

今回は高校で倫理を教えてらっしゃる石浦昌之先生に記事を寄稿して頂きました。お忙しい中作成して頂きありがとうございました。是非、ご一読下さいませ。

プロフィール

今は東京都立上野高等学校で主に倫理の授業を担当しています。中学から10年間学習院に通い、大学では心理学を専攻しました。在学中に哲学や社会学、文化論に興味が移り、自分で勉強を始めて、立教の大学院で比較文明学を専攻しました。指導教官は哲学科出身でマルクス主義を通って黒人文学を教えている面白い先生でした。その後はテレビの制作会社、出版社、非常勤講師など7回職場を変え、27歳で中高の教員になりました。哲学の本を書いたり、副教材や模試などの教材作成も行っています。また、20歳から続けている音楽の世界では4枚のアルバムを作り、ライターとしてムック本の執筆やミュージシャンの自伝本の編集などをやらせてもらっています。

オススメの過ごし方

Q:大学生にオススメの過ごし方を教えてください。

A:好きなことを狂ったようにやり続けることだと思います。個人的にはインターネットがインフラになったばかりの大学生の頃と今とで、行動パターンは変わっていません。古本屋と中古レコード屋に入り浸っての乱読・乱聴、ネットの巡回コースで情報を得るという繰り返し。バイト代を使って、哲学と音楽という好きなことに多少なりともお金を使えるようになったのは喜びでした。あとは直接人と会って異なる価値に触れる経験でしょうか。コロナ禍が様々な制約を生んではいるのですが、勇気を出して、色々な人(例えば大好きな作家さんとか)に連絡を取ってみるのもいいかと思います。学生のうちは意外と警戒されず、返事をもらえたりもします。

必須の能力

Q:大学生に必須の能力を教えてください。

A:自分にとっての価値を語れることだと思います。台本を読むようなスピーチに人が心を動かされないのは、自らの価値を語っていないからです。善悪などの価値を語るには、自分を客観的に眺めるメタ認知が必要でしょうし、コミュニケーションを円滑に進めることも大切になります。そしてもう一つは、グローバル資本主義、新自由主義が根をはった現代社会において、利便性の名のもとに安易に消費されないことです。コスパ重視で得られたモノの方が質・量ともに「軽い」という実感はないでしょうか。表現はよろしくありませんが、コスパの悪い面倒なことを避けてばかりのスカスカになった人達を食い物にするシステムが蔓延している、そのことにもっと自覚的になるべきでしょう。でこぼこした人間を平準化させてしまうコンプライアンスなんていう言葉も、眉に唾をつけて聞くべきかもしれません。

学ぶ意義

Q:ご自身にとっての学びの意義を教えてください。

A:多面的なものの見方を可能にするものだと思います。近頃のネット言論などを見ていると、極めて近視眼的だと感じることがあります。物事の歴史的な文脈をふまえたり、捉える人の立場を変えてみるだけで、多様性や複数性にたどりつくことができます。あとは、よい意味で疑う習慣がつくことも学びの意義だと思います。

オススメの一冊

Q:オススメの一冊を教えてください。

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A:小熊英二(2018)『決定版 日本という国 よりみちパン! セ』(新曜社)をおすすめしたいです。日本という国を眺めるまなざしを養えるこの本、難しいことを中学生や高校生が納得できる言葉に落とし込んで説明する、仕事上のヒントをもらえました。私が主に高校で担当している倫理は来年度から選択科目となります。高校で哲学を学ぶ生徒が減ることが危惧される中、『哲学するタネ―高校倫理が教える70章』(明月堂書店)という本を3分冊(『東洋思想編』『西洋思想編①・②』)で出版する機会を得ました(この本がきっかけでShimakuraさんよりご連絡頂きました)。作る際に念頭に置いていたのがこの本です。

メッセージ

Q:最後に大学生へのメッセージをお願いします。

A:コロナ禍で大変な状況であるかと思いますが、いま最大限やれることをやる、というのはどんな時代でも一緒です。自分を動かすエネルギーで一番尊いのは「好き」というエネルギーでしょうか。好きなことであっても、色々な理由をつけて、やめてしまう人はとても多いです。私はとても勿体ないことだと思います。是非、自分の好きなことを、しぶとく続けていってください。

おわりに

今回は高校で倫理を教えてらっしゃる石浦昌之先生に記事を寄稿して頂きました。お忙しい中作成して頂きありがとうございました。

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先生の著書の中では『哲学するタネ 高校倫理が教える70章 【西洋思想史編②】』を私拝読致しました。現代正義論を俯瞰する入門書としてもオススメです。

コスパ重視で得られたモノの方が質・量ともに「軽い」という実感はないでしょうか。表現はよろしくありませんが、コスパの悪い面倒なことを避けてばかりのスカスカになった人達を食い物にするシステムが蔓延している、そのことにもっと自覚的になるべきでしょう。

私自身は公共哲学を専門に勉強していますが、正直コスパとは正反対の世界にいます。おそらく倫理もコスパ的観点から見れば、すごく「悪い」でしょう。ですが、粘り強く過去の偉人と対話をし、自己の反省を行うことがきっと貴重な経験になると思います。次回もお楽しみに!!


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