大学授業一歩前(第125講)
はじめに
今回は現在、神保町に新たに出来る書店PASSAGEのプレオープンでお会いをした松原隆一郎先生に記事を寄稿して頂きました。お忙しい中作成して頂きありがとうございました。是非、ご一読下さいませ。
プロフィール
Q:ご自身のプロフィールを教えて下さい。
A: 進学校の灘高を卒業、祖父が鉄鋼の会社を経営していたので東大で冶金科に入る予定で理科に進学しました。けれども会社(いまの川崎製鉄兵庫工場)が破綻したので都市工学科を経て経済学部大学院に進学しました。指導教員は西部邁先生。毎週のように新宿のバーに行っては社会思想について議論しました。
東大教養学部で教員になりました。消費経済論、経済思想、日本経済論、祖父の伝記(『頼介伝』苦楽堂)、備中の名士の伝記と本を書いてきました。現在は放送大学に移り、専門は「社会経済学」です。
オススメの過ごし方
Q:大学生にオススメの過ごし方を教えて下さい。
A:「これは」と直感する人やモノ、本との出会いは、多く世間体や義理、先入観にまみれない学生時代に訪れます。聞き耳を立て、感性を研ぎ澄ませて日々を過ごして下さい。
私の場合、大学院を受験し、帰るエレベーターで隣り合わせた西部邁先生、宇沢弘文先生に誘われて、飲みに連れていっていただいたことが人生の転機になりました。いまだに自分の書くものはお二人へのレポートではないかと思うことがあります。
必須の能力
Q:大学生に必須の能力はどのようなものでしょうか。
A:大学で学ぶ「学術」は、事実という証拠と推論するための論理を組み立てます。つまり大学では、証拠を挙げることと理屈立てることを学びます。そのため社会についてはどうしても「過去」が対象になります。事実は過去にしかないからです。
けれども世間に出ると、必ずしも過去の事実や推論には関わりなく、将来についての「直観」と結果がついて回ることになります。どうしても「結果オーライ」になりがちです。学生の内は学術と世間の双方をながめながら、過去へのこだわりと理屈づけへの執着、それらとともに直観を磨いて下さい。
学ぶ意義
Q:ご自身にとっての学ぶ意義を教えて下さい。
A:私はテーマが決まらないと学びません。テーマは、深く謎に感じたことを探りたくなることでかたちを持ちます。
私は岡山県には足を踏み入れたこともありませんでしたが、明治・大正と村長と町長を務めた「高梁市」の生みの親(荘直温)についてお孫さんから依頼されて伝記を書くことになり、「領主の首と土地を交換する」という封建社会のルールを源頼朝が設定したのは中世の社会においては生産要素のうちで土地が重要で労働(人命)は軽いからだと思い至りました。
最後は経済学についての考察ですが、「学び」の出発点は人との出会いにありました。
オススメの一冊
Q:オススメの一冊を教えて下さい。
A:谷崎潤一郎の『細雪』は、私が育った(灘校のある)住吉川沿いで、崩壊しつつある家系が贅沢と差別から成る消費を行ったことを記しています。それについては滝浦真編『日本語アカデミックライティング』(放送大学教育振興会)で読み方を考えてみました。
メッセージ
Q:最後に大学生にメッセージをお願いします。
A:人との出会いがテーマを与えてくれます。大いに交際をして下さい。コロナの時代にも交際は消えません。
おわりに
今回は社会経済学がご専門の松原隆一郎先生に記事を寄稿して頂きました。お忙しい中作成して頂きありがとうございました。
先生の著書『経済思想入門』ちくま学芸文庫を2年生の時に拝読をし、いつか実際にお会いをしたいと思っていたら、神保町のPASSAGEでお会いすることが出来ました。まさに一冊の本が繋ぐご縁だと思います。人との出会いから始まるテーマを引き続き私も探していきます。次回もお楽しみに!!