妖怪アパートの幽雅な日常
妖怪アパートの幽雅な日常
香月日輪 ・講談社 YA! ENTERTAINMENT/講談社文庫 Kindleあり
本編10巻完結・外伝やガイドもあり
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コミックス版
深山和香・シリウスコミックス Kindleあり
1~20巻・以下続刊
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せっかく夏ですし、ちょっと児童向け文学かつ妖怪要素、成長要素の詰まった作品の紹介もしてみましょうか。コミックスも出てますし、アニメにもなっておりますからご存知の方も多いかもですね。
小説が元でして、児童向けレーベルで一揃い発行したあと、文庫でも発行となりました。大人が読むのにも十分耐えうる良作です。
主人公は幼い頃に両親を事故で亡くした「夕士(ゆうし)」くん。
引き取られたおじさん夫婦+娘のお家に居づらいため、早く独り立ちしたいと思い、高校は寮のあるところを選んだらその寮が火事になってしまいました。運が無い…
もうおじさんの家を出る気満々だったこともあって、なんとか寮の修繕が終わる期間を過ごせる仮住まいを探していたら、紹介された格安アパート。ところがそのアパートは…?
と、成長期の「ちょっと家族が邪魔くさく感じる」年齢にヒットしそうな話し出しです。児童向け文学にしては主人公の年齢が少し高めの枠になりますでしょうか(中学卒業~高校生活)。
こちら、「若者の成長を描いた作品」と言えばシンプルなんですが、成長の仕方がなんといいますか、これでもかと栄養を詰め込まれた感じと言いましょうか。
夕士くんの入居したアパート、家賃は格安、読書家の夕士くんの部屋は紹介者のもので本棚(自由に読んでいいよ)あり、なんと三食のごはんもついてるし、風呂トイレは共同だけれど、その風呂が温泉施設。途中から滝までできちゃう。住人は面倒見のいい大人ばっかりだし、美女もいるし、みんな仲がいいしかわいいちびっこや犬もいる。天国か。猫はいないけど……(いないわけでもないですが詳細は伏せておきますね)。
各種曲者揃いではあるものの、少年が成長する環境としては夢いっぱいの超潤い環境なんですね。憧れるわー…こんなアパート最高だわ…でも私だと怠惰を極めそうだなあ…そうでもないかな…食生活は抜群だしな…健康になっちゃいそうだよな…大人組は酒ばっか飲んでるけど…あとごはんめっちゃ食べちゃいそう…
最初は戸惑っていた夕士くん、紆余曲折ありつつ一度は修繕の終わった寮に入るものの、結局魅力いっぱいのアパートに戻ってきちゃう、てところで一巻終了。
こちらの作品、最初は一巻読み切りの予定だったようでして、ひとまずキレイにオチがついてしまっているんですが、二巻以降は夕士くんのダイナミック成長にエンジンフルスロットルとなります。
なにせ全十巻プラス外伝てことで、いくら児童向けとはいえまあまあ長いんですけれど、地の文が読みやすいのと話に動きが大きいので、飽きずにぐいぐい読めると思います。一周したあともう一周しよっと、と再読にも余裕で耐えうる盛りだくさんぶり。登場人物にも無駄が無いし、「まさかの展開!」てエピソードも気持ちいいほどです。
基本的には爽快感に満ちているんですが、成長期特有の「怖い世界」「悪い人」の誘惑もあるし、危ない目にも多く会うんですけれど、周りの大人の助力や夕士くんのしっかりぶりが、道を踏み外さない安定感をまわりにも読者にも教えてくれるんですね。夕士くんちょっとやんちゃもするほうですが、きちんと芯があるタイプで、だからこそまわりも助けてくれるんだな、てのがよくわかる書き方がされています。この作品、登場人物がみんな生き生きとしているし「楽しく過ごしている」感が出てるんですね。いいねえ、日常がキラキラだねえ。
なにせエンタテインメントですので、少しモブの描かれ方やセリフが極端だったりもするんですけれど(基本面白いんですが部分的に好みじゃない表現も個人的にあったりで)、そこも含めて自分の環境やあり方を見つめ直せる良い話じゃないかと思います。なかなかここまでの面白い環境が身近にある人っていないでしょうけれど、夕士くん結構なことを巻き込まれとはいえ「やってみる」てしてるんですよね。しかもひとつひとつにかなり真面目に取り組んでます。この姿勢は素直に見習いたいですね。
どこからどこまでがネタバレになるのかがなんともわからないのですが、最終的には大人になった夕士くんも書かれたりしてるので、これもある意味正統派の児童向けといいますか…「こういうことを経て、こういう大人になるんだな」と、子供の読者の将来に夢を与える感じになってるのかなと思ってます。要は非凡な大人になるんですけれど、平凡でも面白かったかもなーとは読者の贅沢な想像というやつです。ちょっとかっこよすぎちゃうけど、物語の主人公だしそれでいいのかな。
わたしこの作品で何が好きって、
「若い子がもりもりごはん食べて、ガツガツ活動する」
っていう若さと体力と元気と生命力に満ち溢れてる描写なんですよね。
もちろんお勉強だのもしてるんですけれど、ご飯シーンと修行シーンと回復シーンのルーチンが「人、育ってるぅーーー!」って感じで気持ちがいいんですよ。
もう自分も40を回ってしまったので、こんなにごはんもりもりいったら吐くわーとか胸焼けがーとか筋肉痛がー、疲れがーーーを真っ先に懸念しちゃうんですけれど、若い子がおいしいごはんにわーいてなってるの見るの楽しいですよね。それが擬似的に味わえます。いっぱいおたべ夕士くん…大人読者は保護者や先輩の気持ちで読むととても楽しいんじゃないでしょうか。若者読者はどう思うのかな…わたしはすっかり大人になってからこちらの作品に初めて触れたので、現役の若者の感想はすごく興味深いですね。
著者の香月先生、地獄堂霊界通信をはじめ、ファンタジックな魅力溢れる作品を多く書かれていて、これからもっとたくさん素敵な作品が読めるかなーって思っていたら、2014年にご逝去なさってしまったんですよね。まだ51歳でした。つくづく残念でなりません。残された作品達を引き続き楽しませていただこうと思っています。そして作品たちの元気を少しでも見習って生きていきたいものです。
ということで、若者の成長を目の当たりにしたい、ちょっとファンタジーな日常にわくわくしたい、という方は老若男女問わずぜひぜひ。
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