心の畑を耕す人
所要で家から利便性の良いメイン道路方面に行く事があり、ふと近くにTSUTAYAがあるので寄ってみようかと思ったら
僕の心の畑を耕してる田吾作が鍬を抱えて走ってきた。
『なんねだ、TSUTAYAさ寄ったらなんねだ』
「なぜ」
『おめさ、もう先日図書館で合計11冊も借りてるだよ。そんな種抱えてもなかなかオラそんないっぺんに植えらんねえだよ』
「見るだけだよ買わないよ、そんな持ち合わせもないし」
言い訳しながらまず新刊コーナーをチェックする
「お、芥川龍之介をモチーフにした小説か」
『だめだぁ、新刊は先に読みたくなるべ。そしたら図書館の本が後回しになっちまう。それにおめぇさっき金ないって言ってたべ?』
僕は青と黄色のカードを田吾作に見せる。
「この日の為にコツコツとポイントを貯めてあるさ」
田吾作はじっとカードを見つめしぶしぶ引き下がる
『Vポイントになってるご時世に、まだ替えてないのダサいだよ…』
負け惜しみの様な田吾作のつぶやきを無視してセルフレジで会計をすます。勿論ポイント利用で。
「ポイント利用とはいえ、作者様の売り上げに貢献できた。新刊本を買う事は意味があるのさ」
『んだな…これできっと良い種をまた作って下さると期待を込めて』
田吾作は手を合わせ拝んだ。
そして所要を済ませ、僕はそのまま近くにあるBOOK・OFFへと足を伸ばす。
田吾作が今度は手拭いで汗を拭きながら走ってくる。
『おい!おめぇあそこさ行ったら大量に買っちまうだ、なんねだ!』
「今日は29日、ブックの日…探してる本があるんだ。ポイントもクーポンもある。せめてチェックしに行かせてくれ」
『ぐぬぬ』
帰宅
『なんで11冊も買ってるだよ!』
「全て110円だ許してくれ。これだけ買っても昨今の単行本一冊にも満たない」
『そりゃ世知辛い世の中だ…』
「さっきの買い支えも大事だが、僕も節約して本を買わねば肥料も種も回せない。田吾作の自慢の畑も枯れるだろ?」
『ぐぬぬ』
しかしなんやかんや言いながら今回仕入れた本を楽しそうに見ているのは田吾作なのだ。僕の畑の管理者だけあって、僕と嗜好が同じだ。
『こりゃきちんと読みきったら良い物が育つだよ。問題はおめぇがちゃんと読みきるかだ』
「ぐぬぬ」
ちなみにBOOK・OFFでは探していた本はなかった。昔からの古典だし、古本であれば嬉しいと思っていたが、もう新品で頼もうかなとアマゾンのアプリを立ち上げる。
途端にリュックの様に背負い籠をしょった田吾作が走り寄ってくる。
「なんねだ!おめさ、先日アマゾンのポイント使いきってただ!もう騙されんぞ!」
「ぐぬぬ」
積ん読は飢饉の際の備えとして必要だ。きっと…
誰にも見えぬ心の畑。実った作物も僕と田吾作しか知らない。