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本のご紹介12

「夜の魂」天文学逍遙 チェット・レイモ 山下知夫 訳 工作舎 一九八八年発行

 「夜空を観察する技術は、五〇パーセントが視覚の問題で、五〇パーセントが想像力の問題である」ーーかつて星空の観察者たちは、視覚に比べてより多くの想像力を交えていた。天空にドラマチックな神話をくり広げたギリシャ人、星の色にエキゾチックな響きの言葉を添えた一九世紀の天文学者たちーー。夜空の闇こそは、あらゆるものの起源であると同時に、人間の精神と心を育んできたゆりかごでもあるのだ。チェット・レイモは、身のまわりの自然への博物学的観察のまなざしを、想像力によって、はるかかなたの星や銀河へ、宇宙の果てへと結びつける。レイモにとって、夜は無限に対して開かれた窓なのである。本書の読者は、レイモの巧みな譬喩ひゆとマイケル・マカーディの漆黒の版画によって、夜空の闇と沈黙へと向かう巡礼へと誘われる。その巡礼の果てに、精神と心は、究極の神秘、知ある無知に遭遇することになる。それはまさに”夜の魂”を求める巡礼なのだ。ーーーー著者紹介より

「ヴェルベットとシルクの肌触りを持った文章を紡ぎだす作家」と形容されるらしく、生憎うちにはナイロンと木綿生地しかござらん、つと手芸屋さんへとその生地を買いもとめに行き量り売りになりますからと反物たんものを広げジョキジョキ裁断する裁ちばさみのラグジュアリーなこそばゆい音にラグランジュのトロヤ点までぶっ飛んで暫くお店に遥々通い詰めたのは幻想の思い出だ。

 訳者の山下知夫の仕事には「蜜蜂の生活」M・メーテルリンク(共訳)「薔薇十字の覚醒」フランセス・イエイツがある。

 すこしばかり本文を。

まばゆい星々、暗い星雲。そしてオリオンのベルトの東側の星、巨大なアルニタクの輻射によって、冷光(ルミネッセンス)を放つまで搔き立てられたガスの堤防。夜の中に神秘家のビジュアルに似たものがあるとすれば、これを措いて他にない。星明りによって新しい天文学の秘密を解き明かす作業は、もはや千の顔をもつ一人の英雄の仕事ではない。それは一つの顔をもった千人の英雄ーーつまり科学の共同体ーーの仕事である。けれどもその探求は、オリオンを暗いワイン色の海を渡ってさまよわせた探求と同じである。夜こそ、夢幻に対して開かれた窓である。われわれも闇を通って、光の方向へよろめき歩いているのだ。   36頁

なるほど(ジョン・)バロウズは自他ともにみとめる昼の男であったが、夜を称えるのも忘れなかった。「夜の贈物は触知しがたい」と彼は述べている。ーー「夜は果実と花、パンと肉とともにやって来てはくれない。それは星や星屑、神秘とニルヴァーナとともにやってくるのだ」。ときおり夜のほのかな光が、己の姿をバロウズに見せることもあった。そして天が開かれる。彼の想念はその深淵に、「輝く閃光のごとく」向かっていった。ところがヴェールがまたしても引かれてしまう。ちょうど深夜のほのかな、束の間の啓示を捉えようというそのときに。
「啓示を剝き出しの大きさのまま捉える事は、わたしたちの手には負えないのだ」。            53頁


 ではでは(*'▽')。

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