春の夜空は何色に輝く

「君たちのセックスが見たいな。」
繁華街の至る所で行われている下世話な飲み会。「ハタチです!」が常套句だったあの頃。
酔った勢いでキスする私たちを見て、男はそう言った。スーツ姿で清潔感のある、いかにも真面目そうな男だった。

誘われたのは高級なホテルの一室。男はベッド脇の椅子でグラスを片手に、舐め回すような視線でこちらを見ていた。
「私が下ね。」
そう言うと、既に酔いが回っているらしい彼女はごろりと横たわり、大胆に白いブラウスを脱ぎ始める。私もそれに応じて、彼女のピンク色の下着に手をかけた。男が喉を鳴らすのが聞こえる。

上質で広いベッドの上。私と彼女は、世間でいう友達の領域を超えた。お互い見よう見まねで適当に、演技も噛み合っていたのかわからないが、男は非常に興奮した様子だった。

「2人とも本当にかわいいね、最高だよ。」
男は私たちを抱きしめると、頬に軽くキスをした。ふと窓の外に目をやると、高速道路を行き交う車のライトがやけに眩しかった。

たった2時間程の戯れで、時給900円では100時間働いても満たない金額を手にできると知った。掌の上に並ぶ福沢諭吉に湧き上がる気持ちを抑えて早々と、人が眠る建物を後にする。もう彼と会うことは無いだろう。
さっきまで腕の下にいた彼女は、隣で平然とお札を数えている。良いことなんて1つもしていないのに、どうにも気分が良い感じだ。

先刻まで恋人の様に絡めていた手を今度は友達のそれに切り替えて、気づけば私達は駆け出していた。踊るような足取りで、吹いていない追い風に乗ってどこまでも行けそうだ。
「マジでやばい、ウケる!」
彼女があんまり楽しそうに笑うから、私も釣られて笑った。なんだか愉快で笑いが止まらなかった。走るのは嫌い、ヒールの踵は痛い。それなのに、脚は止まることを知らなかった。

4月の夜更けに2人揃ってミニスカートでも、寒くはなかった。内臓に浴びせたアルコールは既に消え去り、代わりに私達を酔わせていたのは下着の中に隠した札束。あの日、星一つ見えない夜空の下で、私達は確かに無敵だった。

顔を出すことのなかった罪悪感が、ネオンの光に溶けていく。彼が何を買い、私達が何を売ったのかもわからないまま。

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