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【読書ノート】76「軍事戦略入門 (シリーズ戦争学入門)」アントゥリオ・エチェヴァリア
古今東西の軍事戦略を分析してまとめた教科書的な内容。軍事戦略についての入門書として有用。
〈目次〉
第1章 軍事戦略とは何か?
1 軍事戦略の分類 2 軍事戦略の策定 3 軍事戦略の実践
第2章 殲滅と攪乱
1 殲滅戦略 2 攪乱戦略 3 攪乱戦略と「間接的アプローチ」
第3章 消耗と疲弊
1 消耗戦略 2 疲弊戦略 3 消耗・疲弊戦略の採用
第4章 抑止と強制
1 抑止戦略 2 強制戦略
第5章 テロとテロリズム
1 戦略テロ爆撃 2 テロリズム 3 新たなテロリズム?
第6章 斬首と標的殺害
1 定義 2 斬首戦略 3 標的殺害戦略
第7章 サイバー・パワーと軍事戦略
1 サイバー戦争 2 サイバー・パワー 3 サイバー戦略
第8章 軍事戦略の成否を分けるものとは?
1 軍事戦略の成功要因とは? 2 軍事戦略の失敗要因とは?
訳者解説
参考文献
以下、気になった個所を抜粋
・・・直接的アプローチを避けようとしたばかりに大惨事や失望に終わった事例は歴史上豊富である(もっともリデルハートはこれを反証しようと努力したが)。その例を2つ挙げれば、第一次世界対戦中の未完に終わったダーダネルス戦役と第二世界対戦中の連合国によるイタリア半島進行である(いずれもウインストン・チャーチルが強く支持していた)。ダーダネルス海峡はエーゲ海とマルマラ海をつないでおり、そこへの上陸及び作戦が成功すればコンスタンチノーブル(現イスタンブル)を脅かすことができると考えられた。同都市を占領すればトルコが戦争から脱落し、さらに南ロシアへの海上交通走路を開くことができるかもしれなかった。リデルハートの見解では「ダーダネルスへの一手はトルコに対しては直接アプローチだったが、当時のコーカサスで抗戦中のトルコ軍主力に対する関接的アプローチであり、さらに高いレベルでは中央同盟諸国全体に対する関接的なアプローチであった」。 しかし、その戦役は大惨事であり、最高司令部における過度の楽観論、乏しい訓練、不十分な偵察、そして不十分な兵站のために行き詰った。イギリス、フランス、オーストラリア、ニュージーランド、インドの兵士およそ50万人を巻き込み、その半数以上が死傷したのである。 基本的にリデルハートは、それは発想の失敗というより遂行の失敗であったと弁明した。 (43ページ)
・・・究極的に連合国に勝利をもたらしたのは、消耗戦略であった。連合国は、枢軸国側のそれと比べて圧倒的な経済・工業力のおかげで、そのような戦略を追求できる余裕があった。平たく言えば消耗戦略は敵の物質的戦力を削っていくことによって勝利を目指す。
消耗戦略を補完するのが疲労戦略であり、こちらは敵の戦う意思をすり減らすものである。これら二つはしばしば並行して用いられる。つまり、物質的戦力を破壊することは戦う意思を低下させることにもつながる。しかし時に、抵抗を続けることで、戦争に終わりがなく意義も見出せないと敵に思わせ、疲れ果てさせることができる。(46ページ)
端的に言えば疲労戦略とは、敵を厭戦気分に追い込むか、もしくは勝利が不可能であると敵に読ませるものである。これら両戦略は長期戦となり得るので、我が方の人民と経済に重い負担をかすことになりうる。よってこれらが文化的に容認でき、経済的に実行可能であるとは限らない。しかしその条件が揃っている時には、迅速な勝利を求める殲滅・撹乱戦略に対する効果的な対処法となり得る。しばしば、消耗と疲弊はこれら以外の全ての軍事戦略の根底を成すものであると言われ、その主張に道理がないわけではない。実際、あらゆる軍事戦略は、敵の物質的または精神的な力を削るか、少なくともそう脅すことをともなう。また消耗と疲労は、他の戦略が失敗した時に結果として代案とならざる得ないことも多い。(47ページ)
抑止と強制(または強要)の軍事戦略は、実質的に一方がもう一方の逆であることから、まとめて議論することができる。抑止とは通常、人々に何か(攻撃を開始することなど)をしないように決断させることと定義される。強制とはたいてい、人々に何か(軍部隊を撤退させることなど)をするように強要することと解される。誰かが何かをしないように抑止ないし説得するには、大抵何らかの強制行為も必要となる。同様に、誰かに何かするように強制するには、通常、多くの抑止活動を実行することにもなる。
(67ページ)
抑止戦略
抑止とは平たく言えば、やる気をなくさせるか思いとませることを指す。抑止の軍事戦略とは、侵略行為を抑止するか、または利益が上回るほどの損失を与えるに十分な物理的・精神的な能力を我が方が用意していると敵に信じさせることである。専門家からは一般に、抑止の四種類を区別している。すなわち、自身に対する攻撃を抑止する直接抑止、友好国または同盟国に対する攻撃を抑止する拡大抑止、潜在的な脅威を抑止する一般抑止、差し迫った攻撃を抑止する緊急抑止である。インドとパキスタンは、それぞれ相手の侵略行為を思いとどまらせるだけの軍事力を保有しているために、双方とも直接抑止実践していることになる(数度に渡る戦争や国境紛争、小競り合いのため、抑止は不安定かつ不確かな状態になっているが)。(69ページ)
20世紀に半ばまで専門家らは戦略爆撃を「上からのテロ」、革命家やテロリスト集団の攻撃を「下からのテロリズム」と呼ぶようになった。・・・テロを通じた暴力的な革命は転覆と民衆の統制は、レーニンの革命理論の鍵となる原理であった。・・・毛沢東も、民衆の支持を確保するためにテロの行使が必須であるとする革命理論を推進した。
・・・毛沢東の一般理論は三つの段階からなっていた。すなわち、民衆の中に政治的な支持基盤を作り確立すること、斬新的に大胆な攻撃を通じて支持基盤を拡大すること、そして全面的な反撃に出ることである。明らかに、民衆の支持が三つ全てに不可欠であった。彼のトレードマークとなる言葉の一つで、「人民は水、(革命)軍は魚のようなものである」と毛沢東と述べた。水がなければ、魚たち死んでしまうのみである。同様に人民の支持がなければ、革命軍は溶けるように消えてしまう。毛沢東の初期の思想では、その支持は必要ならばいかなる手段をもっても確保すべきものであった。
(96ページ)
軍事戦略の成功を要員とは?
以下の四つが際立って重要である。第一の課題は、敵の強みと弱みについて批判的評価を行い、それに対して自身の強みと弱みを対抗させることである。それは完全に客観的な総合評価であるべきで、新情報の入手や戦況の変化に伴い更新していかなければならない。孫子が忠告したように、「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」。(141ページ)
情報はしばしば不完全であり、時には組織的な圧力によって歪められているものの、国家元首である部族の長であれ、敵(と味方)に関してできる限り多くのことを明らかにしておくのは必須事項である。敵の指揮官に関する知識が重要であるだけでなく、その人物の指揮下にある戦力の特徴、つまり士気や闘志、装備の質や量、そして基本戦術や戦い方に関する情報も重要である。
第四に、全てをまとめ上げるため包括的かつ首尾一貫した戦争計画が必要である。戦争計画とは戦略の実践面であり、政策目的とその達成のための軍事力行使との間の実際の連結部である。ここで、戦略の構成要素が影響してくる。戦争計画によって軍事目標を確立し、作戦範囲を設定し、特定の指揮官らに任務と副任務を割り当て、それから指揮官らにその遂行責任は求め、そして計画遂行の邪魔とならないようにするように対処すべき詳細事項を特定する。(143~144ページ)
軍事戦略とは、敵軍を破壊するために武装して戦場を前進していくという以上に、はるかに大きなものであるということが、もはや明らかなはずである。それには目的、方法、手段、リスクのみならず、潜在的な別個の二つの任務、すなわち敵の戦う能力を削ぐことと、戦争目的を達することとの間のバランスを取る、巧みな義量が必要となる。
これらの任務のため、こちらの努力が反対方向に二分されていってしまうことはよくある。つまり、軍指揮官らは第一の任務(敵戦力の破壊)を追求し、政治指導者らは第二の任務(戦争目的の達成)とコストの抑制に注意を向ける。軍事戦略家は、敵の抵抗が十分にくじかれるようにしなければならず、さもなければ戦争が長引くかもしれない。(144ページ)
言うまでもなく軍事戦略は、成功に不可欠な要素、すなわち客観的評価、盤石の行動方針、熟達した指揮官、そしてすべてをまとめ上げるだけの一貫性なある戦争計画など、そのいくつかに欠いていれば失敗する。
(145ページ)
(2024年10月10日)