第6章 夏を迎え撃て! 〜振り返り編〜
夏本番、日本はかつてないヤバい暑さになっている。
今年の夏作では慣行農法をやめ、自然的な栽培をあれこれ試してみた。
栽培環境を自然状態に近くすれば、人も野菜も暑さに耐えられるのではないか?
そんな仮説のもとでの栽培を振り返ってみた。
育つ前に野菜が消滅しやすい!
本当は多様な種類の作物を直播でワイルドに育てたかった。だが、直播や若苗定植では大きくなるまで生き残れない野菜が多く出た。
芽は出るのだが、そのまま虫の餌になってしまうパターンが多かったように思う。殺虫剤をあえて封印してみると、今まで使っていたダイアジノンの恩恵がよくわかる。
虫害の原因の一つは雑草マルチだと思う。脱プラ(黒マルチ)の代替技術としては有効だったが、欠点は地虫の巣窟になりやすいということだろう。
硝酸態窒素の含有量が少ない無肥料野菜は虫に食われにくいという記載を見ることがあるが、バッタ・ダンゴムシ・ヨトウムシたちには無肥料だろうと関係がないようで、容赦も遠慮もなく喰われてしまう。
害虫対策として期待していたカナヘビなど捕食者たちは昨年よりも確実に増え、カナBABYも見かけるようになった。しかし、害虫を食い尽くすほどの数にはならなかったということだろう。
これまで作ったこともない作物も蒔いているので、もしかして草姿がわからないままに雑草化しているのもあるかもしれないが、いずれにしても狙った通りの生態系の状態をデザイン通りに作り出していくのが難しいことが身に沁みてわかった。
今後の対策:
適期に播種をして、十分に日光にあてる空間確保だけでは初期生育には不十分だった。虫に抵抗できる大きさになるまでの育苗と定植が必要かもしれない。
一方で、育苗自体を自然的栽培と呼んで良いのかと疑問なので、生存率を上げるためにより複数の箇所での直播を継続し、失敗した時の保険として育苗をしたい。
まだまだ日陰が足りない!
日陰があれば強烈な夏の日光をブロックすることができる。畝の両脇部分にはスイートコーンなどイネ科の大型植物で日陰を作ろうと考えていたが、無肥料栽培をためしてみた結果、生育がおとなしく小型化してしまった。
これでは払暁と日没以外は、圃場が強烈な真夏の日光を浴びてしまう。
今までは濃縮堆肥のみ・追肥や液肥で草勢を調整する施肥スタイルにしていたので、そもそも土壌に残留肥料分が少なかったことが原因だろう。畝のキャベツや葉物野菜・大根・トマト・ナスなどはそこそこ育つ一方で、スイートコーン・オクラなど肝心の日陰を作る役を担うべき作物の生育が顕著に悪くなった。
酷暑でスイートコーンがそのままドライコーンになっていく中、スーパーソルガムは緑を保ちながら無肥料にもかかわらず約3mに達し、日陰づくりの面で唯一貢献をしている。来年はソルガムを陰の実力者にしていきたいと思う。
無肥料でも普通に育つように土壌改良する事も可能かも知れないが、膨大な有機物や家畜の投入が必要なリジェネラティブへの道は険しい(大量の有機物確保のために、家庭菜園を草のジャングルにしてしまう事は近所の目もあって難しい)
今後の対策:
日陰を作りだす大型植物だけはしっかりと夏までにデッカく育て上げたい。
初期生育が弱い場所があったら、次作に向けて根などの土壌中の残留有機物を増やすためにも、ピンポイントでの施肥が必要。
無肥料にこだわって小さくしか育てられないくらいなら、エリアや期間を決めて肥料をあげ、一度バイオマス(土壌中への炭素供給)を充実させた方が次作のためにも良いだろう。
収穫がしにくい!
ナス・トマト・キュウリは畝の中腹に植えていた。今年は支柱を使わず、畝の山頂部分を跨ぐ形で誘引をしていこうと考えていたが、重力に従う形で一部の枝が畝を飛び出してしまった。
また無整枝で栽培してみた結果、根域や草勢が十分確保でき、夏の暑さには負けなかったのは良かったが、繁茂した葉やプラマルチの代わりに敷き詰めた草マルチの中に青果物が潜り込んでしまい、収穫を見落としてしまうことが結構あった。
採り遅れの果実は採種用として活用できるが、できれば適期で食べたかった。
超高畝とはいえ、ほぼ地這栽培。草マルチとして雑草堆肥を使っていたので、糸状菌系の病害を懸念していたが被害なく、タバコガの被害もほぼゼロだったが、地面に近い分、カメムシに吸われることが比較的多いと感じた。
今後の対策:
枝を伸ばす野菜は畝の山頂部分に植えて、自然に裾野へ広がる形にする形がベスト。プラマルチは使いたくないので、草マルチの上にダンボールを敷き詰め、さらにその上に敷き藁を敷く3層構造にすることで、果実の潜り込みを防ぎ、収穫しやすくする。
秋冬作に向けて
日陰が少ないことで、超高温条件で秋作に向けた播種を余儀なくされることになった。日照りでは発芽もしないので、地表の土壌水分を保持し、地温を下げるための人為的な工夫がやむなく必要になってしまう。
実際に草生栽培を試してみた中で一番面白いと感じたのは、播種のために酷暑で弱った夏の雑草をかき分けたみたところ、次の雑草が全く芽吹いていないということだった。冬の雑草が繁茂した後も一斉に枯れ、春に大麦の敷き藁を敷くまでは、しばらく緑がない状態になったことを思いだす。
春先と晩夏の作物の播種時期に合わせる形で、常に圃場に生きた植物を維持することは意外と難しいことが実感できた。
今後の対策:
野菜の種類を増やすことで生態系を多様化しようとしてきた。このアプローチには限界がある。畑の中に野菜以外の樹木や多年性の球根植物などを組み合わせ、常緑状態を作りだしたい。
不耕起・草生・無農薬・無肥料・脱プラといった自然的な栽培手法の長所短所を解析することで、新たな自然的栽培手法の糸口がつかめた。
この半年で学んだ事は、自然的な栽培に取り組んできた諸先輩たちがとっくに経験してきた事かもしれないが、本や動画サイトで拾える一般的な情報とは違い、自分独自の知見が得られたと思う。
宮沢賢治の詩の中で、好きな一節がある。
自分で試し、本当に肚落ちした技術や体験を少しづつ伝えていきたい。