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禁断の味。

世の中にやってはいけないことがいくつもあります。
中には、法律できっちり定められて、きっちり罰がくだるようになっていることも。

「いかんよ、いかんよ、これだけは絶対に勝手に食べてはいかんよ」

時代は昭和中期。

瓶の底に沈んだ梅酒の実。
小学生のわたしは当然、未成年であるので、アルコールの摂取はご法度。グレーゾーンということで、時々、母親から一粒だけをお玉ですくってもらい、口に入れた瞬間、鼻に抜けるそのあまりの旨さに目を白黒させていました。
中でも、どうゆう塩梅なのかグミのように歯ごたえのあるしまりのある実になったやつが好みなのでした。

漬かるまでもう少し

いかんよ、いかんよ、と言われるほど、手を出したくなるのは人の性。

「好きなだけ、食いてえなぁ」

母親の外出を見計らって、キッチンの棚によじ登って、子供の手が届かないように置かれた瓶に手を伸ばしました。

子供なので、ターゲットを見れば一直線。
お玉なんかつかわず、そのまま肘まで梅酒の中につっこみ、手ごろな梅の実をわしづかみしてはワシワシ食べたのでした。

禁断の果実はまさにこのこと。
「いかん」と言われるほど、梅の甘美な芳香とアルコールの痺れるような刺激に、わたしはすっかり魅了されてしまったのでした。

当然、その後、カンの良い母親にバレて、こっぴどく怒られたのですけどね。

59年物ですのよ。

1967年に公開されたボンド映画「007は二度死ぬ」
主演はショーン・コネリー。最近のボンド映画は舞台の国がめまぐるしく変わるのが常ですが、本作は全編日本が舞台で、ステレオタイプの60年代日本が目いっぱい表現されていて、シリーズ屈指のカルト映画として、その筋では大好評を得ている作品です。私もその筋のひとり。

その中であるシーンが大変気に入っています。

米ソ宇宙船失踪事件との関連を調べるべく、「大里化学工業」を訪ねたボンドはペントハウス風社長室に通されます。

やがて、大里社長は美人秘書と共に社用ヘリで重役出勤
大里社長こと島田テル
実はスペクターの手下同士

お互いの自己紹介の後、秘書は隠し扉のキャビネットから、一本のシャンパンを取り出し、ポンと栓を開けるのです。

演じるはカリン・ドール

秘 書:シャンパンをいかがです?
ボンド:朝からは結構
秘 書:本当に?
ボンド:ああ
大 里:私は毎朝1杯飲むんです いかがです?
ボンド:肝臓に悪い
大 里:ナンセンス!一日が輝きますよ
ボンド:そうでしょうね
秘 書:ドンペリニヨン '59年ものですのよ 召し上がれば?
ボンド:そこまでおっしゃるのなら
大 里:どうぞ お掛けを

大酒のみのボンドにしては、殊勝にも一回はアルコールを断っています。
が、朝寝、朝酒・・・と申しますか、シャンパングラスに注がれた朝のドン・ペリはむちゃむちゃ美味そう。

朝っぱらのオフィス空間とシャンパンのこの両者全く相容れない、かけ離れた存在が、得も言われぬ禁断の魅力を醸し出しているのかもしれません。
後のシリーズの中で、ジュディ・デンチ演じるボンドの上司Mが執務室でロックグラスでバーボンを嗜んでいましたが、それはあくまで添え物程度。

「こんな朝っぱらから、飲むもんじゃないんだけどねぇ」

ボンドに断られても、大里社長が満面の笑みですすめた、朝っぱらのシャンパンが放つ禁断の魅力はケタ違いと言えるでしょう。

禁断の梅酒の実、朝っぱらから飲むシャンパン。
禁を犯すほど、常識から外れるほどに、その魅力は二次曲線を描いて爆上がりします。

時は下って、令和の時代。

色々と規制が厳しくなりましたが、日常生活に直結している戒めの一つに厳罰化著しい「飲酒運転」ですね。

一部の不心得者により、悲劇が繰り返されるたびに、飲酒運転への世論の風当たりは強まり、取り締まりも罰則も厳しくなっていったのはご存じのとおり。
加えて、あえて飲まない選択肢も加わったりして、酒をたしなむことについて、昔ほど大らかな世の中な時代ではなくなってしまったようです。

妻と山梨方面にドライブに出かけた帰り、コンビニやら道の駅でお土産を買うついでに、ボトル型缶に入ったハーフサイズのスパークリングワインを買うことがあります。缶入りのワインは中身がたいていチリなどの海外産で、不味くはないのですが、もう少し味わいとフレッシュさが欲しいところ。

今回、山梨のとあるワイナリーで入手したのはめずらしく山梨県産ぶどう100%の品。1本約600円と通常品の倍ですので、結構強気な価格設定ですね。
ラッパ飲みしないで済むよう、フタがカップになっていますので、駅弁と一緒に売っていた日本茶のボトルをなんとなくイメージさせます。

帰りの車内で妻が飲むかもと自己申告したら、売り子さんはドン・ペリを勧めてきた美人秘書のように
「良く冷えたのをお持ちしましょうか」
と、気を利かせてくれたのでした。

「今、飲む?」
「うん」

車内の妻は二つ返事。
あくまでも妻へのサービスタイムなので、もちろん私は飲みません。その時点で家へ帰れなくなりますし。

冷えた缶からカップに半分ほど注ぐとベリーの香りが車内に満ちていきます。原料は巨峰なんだけどな。

「うゎ、おいしい!」

信号待ちで停車するたびに、空いたカップへサーブします。
ぶわ~と立ち上る甘い芳香。

「どう?」
「最高!」

走る車の窓から、緑したたる景色を眺めながら飲むロゼ色のスパークリングワイン。
今の日本では、法に触れない範囲でも車内とアルコールは基本的に相容れない風潮ですが、いかん、いかんと思うほど飲む酒ほど美味く感じるのはどういうわけなのでしょうね?

それから数日して、近くにある食品スーパーで同じ缶ワインをたまたま見つけたので、ようやく私も自宅で飲む機会がめぐってきました。

山梨県産巨峰 やや甘口
外出時はフタをカップにして

「ん~、缶ワインにしては普通に美味いね」
「でしょう?」
「こんなのを助手席で飲んでたんだね、この果報者めが!」
「ふっふっふ」

結局、ハーフサイズ1本で足りるわけもなく、別の買い置き山梨ワインにも手をつけた宵の口なのでした。

  • 梅酒の実をわしづかみ

  • 朝っぱらのシャンパン

  • 車中のお酌

どれもこれも禁断の味、お子様は手をだしてはイケマセン。

山梨のスーパーや道の駅で見かけたらお土産にどうぞ


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