小説を読んでみた(13冊目『52ヘルツのクジラたち』)
今回読んだ小説
タイトル
52ヘルツのクジラたち
著者
町田そのこ
出版社
中央公論新社
あらすじ(概要)
52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く世界で一頭だけのクジラ。
何も届かない、何も届けられない。
そのためこの世で一番孤独だと言われている。
自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれる少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、魂の物語が生まれる。
読み終えた感想
癒え難い痛みを抱えているパターンに決まりはなく、あくまで一つのパターンとして描きつつ、声なき声を聞くようなスタート地点に立つまでもが難しいながらも行き着いた傑作でした。
いわゆる虐待は、される側とする側が揃ってこそ成り立ち、結果的に"孤独"という状態になってしまうイメージ。しかし、その辛さや苦しさを聞く側がいることで成り立つある種の依存関係も不思議ですが、かすかな温かさがあることが救いのようなものなんでしょうか。
キーワードは、"魂の番(たましいのつがい)"だろうか。
簡単にいえば、恋人、夫婦など、大切に思う人を基本的には指すのだろうが、痛みを抱えている側にとっては魂の番のことなど微塵も感じられないほどで、そんな状況も描いているのが本作であり、それを認識するには52ヘルツのクジラの"声"がポイントになる。
この本と自分の考えや経験との関連性
幸いにも、どちらかといえば恵まれた環境(裕福ではないが)に育った自分は、この本に限らず、フィクションであろうとなかろうと、虐待や過去のトラウマの経験談を聞くと、本当にこんなことがあるのかという驚きやショックを受けてしまう。でも実際にあるもので、この文章をつらつらと書いている間に、どこかで"聞こえない"声が鳴いているんだろう。
さいごに
虐待の有無にかかわらず、実は世の中の皆が52ヘルツの声を発し続けているのではないかと思ったりしました。
多くの場合は聞こうともしないし、聞こうにも何も聞こえない。
ただ、聞こえなくとも波長によって、微妙で、繊細で、脆い繋がりを、なんだかんだで紡ぎながら人々は生きている。
52ヘルツでなくとも、私たちは声なき声を聞き続けているし、発し続けている、そんな気がしてきました。
【文庫本版】
【単行本版】
【電子書籍(Kindle)版】
気になる、読みたい本など
『アリアドネの声』『俺ではない炎上』『噂』『花屋さんが言うことには』『殺戮にいたる病』『わたしの美しい庭』『六人』
過去の読書感想
#11冊目 また、同じ夢を見ていた
#12冊目 死にがいを求めて生きているの