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海辺のトンビにピザをかっさらわれそうになって間一髪未遂で終わらせた話

みなさん、こんにちは。
海のそなえ事務局 編集部の河田です。

すっかり夏になりましたが、みなさんはどんな夏をおくっていますか?今年は海水浴へ行ったり、旅行などの外出をなるべく控えようかな…と自宅で過ごされている方も多いのではないでしょうか。そんな時は、海での思い出をたどってみるのはいかがですか?思い出をふり返るのも、なかなか乙な時間ですよ。

ということで、まずは言い出しっぺの私が近年で一番記憶に残っている海の思い出、冒頭の写真、三浦海岸の海辺での恐怖体験をお話しましょう。



ピーヒョロロロロ…

「あー…のどか」


3年前の2月下旬の昼前、晴れ渡る青空を飛ぶトンビの鳴き声を聞きながら、私は取材先の海辺のパン屋を訪れるため、三浦海岸行きの人気の少ない電車に揺られていた。

海辺のパン屋。なんてオシャンティーな響き…。下調べした所、ワンコインで注文後に焼き始める熱々ピザが人気らしい。「今日の昼食は焼き立てピッツァ!」。前夜からそう決めていた私なのであった。


「今日は、きっといい日にちがいない」


駅で電車を降り、晴れ渡る青空と海辺のパン屋というイメージ以外、とくに根拠もなくそう思いながら、私は軽い足取りで取材先へ向かった。

約30分の取材は、問題なく終了した。店主へお礼をいい、お目当ての焼き立てピザを購入。せっかく海へ来たのだから、やはり雄大な海の景色を眺めながら至福のランチタイムを堪能しようと、お店から徒歩3分程の海辺へてくてくと向かう。

さすがに平日、人がいない。空と海の境で白くキラキラと輝く水平線を背景に、遠くにヨットやサーフィンを楽しむ人の姿がわずかに見える。


「絶景、独り占めですな。ムフ」


シチュエーションは完ペキ、あとはさっき買ったばかりの主役の登場を待つのみ。適当な場所に腰かけ、買って間もない熱々のピザが入った箱を開ける。食べやすいように切れ目を入れられた直径約20センチのピザが箱の中で輝いている。その内のひと切れを左手でとり、右手で箱の蓋を閉めた。


「いざ、胃袋へ!!」


と、待ちに待ったピザを持つ左手をほんの少し口元へ傾けたその時だった。


バッシィィィィッ!


何かが私の左肩に、そしてまた別の鋭い何かがピザを持つ左手の小指に当たった。


「イッタッ!!何?」


何が起きたのかはよく分からないが、正体不明の何かが私に当て逃げしていったことは判断できたので、私は影を追ってすかさず前方を見た。そして思わず目を見張った。

は・・・?


なんと、私の左ななめ上、7、8メートル先に、バサバサと音を立てて飛び交う、4、5羽のトンビの一団がいるではないか…。ほんのさっきまで、その姿が点に見えるほどにはるか上空にいて、のどかにピーヒョロロと鳴いていた生き物が、ものの数秒でここまで降下してきたというのか…しかもこんな団体さんで。

これは後に知ったことだが、トンビのような猛禽類の視力は人間の8倍以上あるらしい。そのレベルの視力が一体どういうものなのかは分からないが、とにかく、はるか100メートル以上は離れている上空からでも、一人間が持つひと切れのピザが見える視力なのだろう…恐るべし野生の能力。


「アイツ、チョロそうだから俺が行く」
「次はあたし!」


という生々しい会話が本当に聞こえてきそうな、ネクストアタッカー決めにバッサバッサと翼をぶつけ合い躍起になっている野生動物の姿がそこにはあった。


「絶対、狙われている…私(のピザ)…」


そう、今この海辺で奴らの射程距離にいるのは見わたす限り、私以外にいない。野生の世界は、まさに弱肉強食。私はこのとき、いつか観た野生動物のドキュメンタリー番組で、上空から大ワシに獲物として狙われ、呼吸すら止めているかのように微動だにしない小動物の気持ちと完全にシンクロしていた。

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「命(というかピザ)の危機を本能的に察知するとは、こういうことなのか…」

しかし、ハッと我に返った。きっと次の弾丸がくる。一発目は不発に終わったが、本当に偶然だった。私がトンビの一撃をかわしたことに、私以上にトンビも相当おどろいていることだろう。

まさに人も野生の世界の一員であることを深く実感した私だが、「じゃあトンビさん、ハイどうぞ!」とトンビに私のピザをゆずって逃げるなんてことはできない。

なぜなら、滅多に来ることのないエリアの人気パン屋。手には熱々のピザ。前夜から待ちに待ったピザ。ここで逃したら、熱々が食べられない所か私の今日の昼飯が無と化してしまう…。そして何より、私は今お腹が減っている。そうなのだ、奴らは知らない。私が朝食抜きで、今ここにいるということを…。

前代未聞の人間と野生動物の食のバトルが、ここ三浦海岸の片隅で今まさに勃発しようとしていた。


逃げるか…?食べるか…?
逃げる…食べる…逃げ…


「なめるなよ…マイ アパタイト!!!」


心でそう叫び、学年の百人一首大会でそこそこのランク入りを果たした中学時代以来の払い手スピードを発揮し、熱々のピザを一気に口に押しこんだ。この間、おそらくほんの数秒のできごとだったかと思う。口内を軽くやけどした状態ですかさず奴らの方を見ると、相変わらず同じ位置にいる。どうやら私のこの早業&荒業について来られなかったようだ…。


勝った…。


しかし、優越感に浸る間もないまま、私はそのまま残りのピザをリュックに押しこんで腰を上げ、駅へ続く坂道に向かって猛ダッシュした。

これから何を仕掛けてくるか予想がつかない相手…対抗する術が思いあたらないなら、これはもう逃げるしかない。

横断歩道を渡り、運動不足で筋力不足の足に鞭を打ちながら坂道をかけ上がり、途中まで上ってようやく後ろをふり返った。が、そこにはもはやトンビの姿はもうなかった。ほっとひと安心し、久々にダッシュしたせいで長らく止まらない動悸を引っ提げて、そのまままっすぐ駅へ向かった私であった。

この後、帰りの電車に揺られながら聞こえるトンビの声に対する私の印象が、往路のときと180度変わってしまったことはいうまでもない…。

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以上、私の海辺の恐怖体験をお伝えしました。

もっと素敵で楽しいウフフな体験をお伝えできればよかったのですが、まず思い出してしまったもので、すみません。海辺っていろいろな危険があるものですね。。

ちなみにあの後調べたところ、トンビにご飯をかっさらわれない方法として、頭よりも高い壁を背にして食べる(トンビは死角となる後方から狙ってくる)、上空から俯瞰されないように不透明の傘をさしながら食べるなどの方法があるようです。

今回は私の意地汚…食への意欲がたまたまトンビに打ち勝ちましたが、決して無謀に真似することなきよう…。冷静になって今ふり返ってみると、自分の食への執着心にさすがにドン引きです。

それに、ご飯がなくてもトンビ、万が一狙われることになったら危ないと思います。小さなお子さま連れは特に気をつけてください。一瞬で襲撃されますし、爪とか本気で鋭いですから。(当たり前なことではありますが、襲撃体験者としてあらためて注意喚起させていただきます)

これから海へ行かれる方、またトンビが上空を舞っているような場所へ行かれる方、楽しい夏の思い出をつくるためにも、海辺のそなえはもちろん、ぜひ事前のトンビ対策をとられることを強くおすすめします。

よき夏をお過ごしください。


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