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色香のやどる孤独 ー万人ウケはしないけど好きな作品
こんばんは、こんにちは。小萩です。
毎週日曜に開いている「電子書房うみのふね」、こちらは好きなように自分の好きな本を紹介する、架空書店。ネットの海をぷかぷか泳いで、今日はこちらに辿り着きました。
ところで、今日は、ほんとうにきれいな夕暮れでした。
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
現在続けている、30日小説チャレンジという、30のお題に沿って本を紹介していく特集。
三回目の今日は、「万人ウケはしないけど好きな作品」です。
そもそも、万人ウケってなんだろな、という。いわゆるベストセラーやロングセラーとも限らないけれど、わかりやすい販売部数というのはひとつの基準にはなり得ますよね。ネームバリューも影響するでしょう。でも、大きな賞をとったり、よく売れていたとしても尖った作品はある。あきらかに万人ウケはしていないけど、私がそんなに好きじゃなかったな、となるとテーマからは外れていく。紹介したい本であることが大前提にある。
そもそも、メジャーどころを読む傾向もあるからこういったものに弱いのだけれど、誰もが知っているものだとつまらないし。
いろいろ考えて、こちらの作品にしました。
歌集です。
題名といい表紙といい性的な雰囲気をただよわせていますが、実際官能的で、大胆で、直接的で、けれど寂しい。
首すじをゆるくかまれて
あ、とおもう間もなくあふれはじめる涙
ゆるしあうこころに満ちて沈みゆく
水の景色を覚えてゆかな
撫でさすり 暮れてゆくこと――
それどころじゃないふたりにはそれがすべてで
歌、というのは、言葉を並べるよりも、ただそのものを読んで浮かぶそのひとの言葉こそが魂であって、私がだらだらと文を並べるのはなんだか、残念な感じになる。
だからシンプルに。この本に並べられた歌について、思うこと。
性を表現した歌が多いため、読んでいると自然と濡れ場が浮かぶ。時折とても直接的な表現が飛び出してきて驚いたりもするのだけれど、エロティックという端的な言葉では片付けられない、静謐な気配が常に漂う。感性が素敵なのだ。品がある。
ふたりの営みでありながら、強い孤独や、寂しさを感じさせる。
短いことばたちから浮かび上がる、ふたりのからだの動き、感情、そしてひとりの思い。初めて開いた時は、衝撃を受けた。官能表現は、一般文芸を読んでいても飛び込んでくるわけだけれど、ごく僅かなセンテンスでも、これほどに文の背後から浮かぶ世界があり、幸福といいきれない繊細な描写があり、想像を与えることにこそ良さはある……大事な世界だ……なぜか涙が浮かんだ。開くたびに、豊かな世界が広がっている。
終始女性目線であり、受け取り方は女性と男性で大きく変わってくるんじゃないかな。恋愛を多く扱っているということもあって、女性向けだと思う。
とりあげている内容が内容なだけに、大きな声で自信を持ってこれいいよ!というような本ではなく、これはいいと薦めるタイミングが想像しづらい。恋愛に藻掻いている女性に渡したら、響くものもあって、前を向くこともあるだろうか。あるいは、業の深いCPを推して同人活動してるような方に豊かな想像力を与えられますように……と思いながら紹介するかもしれない。
万人ウケ、という本では、無いと思う。けれど、選ばれていることばはどうしても美しく、よりひとりの時間を意識した歌や、美術や町並みを描写したような歌もある。性を含めて、生活の営みを描いているともいえるのかもしれない。そう書くと、身近なものになる。たぶん、それぞれ個人の抱いているこころから遠すぎないものが描かれているように思う。
とはいえ、万人に勧めるタイプの本ではない。どちらかというとひっそり大事なところに隠しておきたいような本。
それでもこうして挙げたのは、この本が、好きだからである。
というわけで、「万人ウケはしないけど好きな作品」でした。
誰もが知ってるよ、と言われたらごめんなさい、と言うしかないのだけれど、最近Twitterで眺めているかぎりこの「ベッドサイド」も「林あまり」も(私のタイムラインは狭小とはいえ)読書ツイートで見かけたことがないので、はい、いいかな、と。
詩も歌も、べらべら言うよりも、そのものに触れてみるのが一番です。あまり見かけないかもしれませんし少なくとも表立って出ることはそうそう無い作品ではありますが、気になりましたら、ぜひ。
では、今週のうみのふねは、ここらにて。
来週は何もなければ「新作を必ずチェックしている作家さん」を紹介します。作品じゃなくて、作家だそうです。最近は、全体的に昔にくらべると新作チェックに情熱を注がなくなったんですが、それでも新作が出ると「おっ」となってしまう人は、いますよね。そういったことをお話しします。
では、ご縁がありましたら、またどこかの海岸線でお会いしましょう。
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