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「選択肢のある介護」で女性は動けるようになった。


介護をするのはもう長男の嫁とは限らない。

だってこれほど誰もが結婚を選ばなくなった世の中だもの。



罪悪感

ママ友に会った。今では介護友だ。その方が高齢のご自分の親御さんを施設に入れたという。

「それは大変だったわね。お疲れ様」とわたし。

ところがどこか歯切れが悪い。

ながくお世話されてきた方だ。「親となんども話して決めたのよ」といわれる。よほど考えられた末の決断だったにちがいない。

それでもかすかに感じるなにか。

なんだろう。

自宅で介護するわたしへの気兼ねなのかなとも思ったけれど、もしやその方の中にちょっとだけある罪悪感なのかもしれない。


嫁と介護

そういえば、いつか母が、「義母を置いてよそ宅に介護に行って、義母の介護は他の人に任せているお嫁さんがいた」と故郷の話しをしたことがあった。

なるほど、噂になりそうな話だなと思った。

2019年に民法で無償の療養看護や労務の提供をした場合、相続人に金銭の支払を請求できるようにするという内容が明示された(新民法1050条)。

今でも義父母の介護をしている嫁が多いということなのだろうか。介護していたのに相続の時には嫁は蚊帳の外という問題なのかな。それを法でなんとかしようということなのだろう。

そう、この国ではもう遺伝子に組み込まれるほど長い間長男の嫁が介護をしてきた。

母だってその一人だ。

それが辛かったはずなのに、そんなうわさ話を母はそのまま体に取り込んでいた。

人の気持ちってなかなか変わらないものだと思う。



介護保険制度

母と暮らしはじめた頃、もう起きられないと覚悟したけれど、幸い母は元気になった。

それでも病院等の外出時にはわたしが付きそう。

そんな用が頻繁に入り込むとわたしはくたくたになる。それでなくても母関連の雑務はなにかと多い。だから介護を一人で背負うことがどれほど大変なことかはよくわかる。

ただ今は助けてもらえる制度がある。

そのことがわたしにはなにより心強い。

個人宅にヘルパーさんにきてもらうこともできる。皆さん有資格者で介護の知識を持つプロだ。

そんなプロが家で義母を介護してお金がもらえたならどうだろう。その方はきっとまた家から出られなくなるだろう。

そう、この制度は女性がこれまで担っていた介護を家の外に出す役割だって担っている。

そして日本の介護保険制度の重要性は、介護がはじまって気づく。

なんといっても、それは仕事なんだと気づかせてもらえる。

女性が黙って受け入れていた介護は、実は重労働だけじゃなく医療を含むケアワークなのだから。


個人契約

介護にまつわる制度は国によって異なるという。

日本では役所に専門の方がいるし、地域包括センター病院も繋がっていている。

これが個人契約ならどうだろう。

そうした国では弱い立場に立たされたへルーパー搾取されたり虐待されたり、反対に、お年寄り虐待されることがあるという。
『在宅ひとり死のススメ』上野千鶴子2021文藝春秋


かつてわたしが暮らした香港では家事全般は外国人労働者、主にフィリピン女性が担っていた。

ある日わたしはマンションの台所の奥にドアがあることに気づいた。パントリーだと思っていたけれど開けてみて驚いた。そこには洋式トイレと左上にシャワーが、右壁には折り畳みのベッドが壁に取り付けられていた。

いったいどれほど小さな人だったらここで足を伸ばして眠れるだろう。もちろんこれが虐待だと言いたいわけではないけれど、閉じられた家の中のケアワークが個人契約になった時には、そうした危険がないとはいい切れない。


それに人には相性というものだってある。そうしたことまで相談ができるのが日本の介護制度の素晴らしさだ。

ちょっとした問題で人は頭を抱えるもの。

けれどその間に人が入る、たったそれだけのことで利用者も働く側もどちらも助かる。それが個人契約ではない良さ。

これは開かれた制度なのだ。



おわりに

介護施設に親を入れるというとドライな感じがする人もまだいるのかもしれない。ただ互いが話しあって決めたのなら立派な選択だ。

人は大切にしたいものがそれぞれ違う。

ずっと一緒に居ることを強く望まれる方にとっては施設は不幸に思えるかもしれないけれど、もうここまででいいよと思う親もいる。それぞれだ。

一番いいのは介護する側に悔いが残らないこと。もちろんよくよく考えたことなら罪悪感など感じることはない。自宅に居ても施設に入っても、心は繋がっていられる。

なにより嬉しいのは、この制度で介護する側にもされる側にも選択肢が生まれたこと。


※最後までお読みいただきありがとうございました。


※スタエフでもお話ししています。良かったらお聞きくださいね。

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