「パッション」―秘儀―
「パッション」―秘儀―
激しい轟音と共に俺の意識は上昇し、発光に包まれ、失神した。
俺の全細胞は零光に焼かれた。名状し難い至福と苦痛によって俺の意識は容した―――。狂おしい覚醒が灼熱した……。
心身はのたうち、俺は苦痛の極限状態の甘美に痺れた。
地上を超えた絆が俺を捕らえては引きずり、粉々にした……。
俺の眼前に殉教者の亡霊共が嵐の如く容赦無くまとわりついた。
俺は両極の拷問を熾烈に味わった。避けがたい運命に俺は呪縛されたのだ。
俺は全てを飲み込んだ。避けられぬ運命と観念せざるを得なかった。俺の魂は灼熱した。マグマの奔流が裡から肉を裂き、迸る――。世を絶した光源が闇を照らし、魂を灼く。
俺はあらゆる他者に光の矢を放ち続けた・・残忍非情、仮借ない過酷な活動は狂人と等しい。殉教者と同化した俺にはただ火を投げつけるしか出来なかった。
やがて、業火の渦はそちこちに火の手を上げた。消化する隙を与えず浄化の炎を片っ端に点け回った。地上のいかなる弁明も弁解も釈明も焼きつくす衝動が突き上げ、引きずる。
ああ、この狂おしいパッションを何としよう・・・・・・。
ゴルゴダの秘儀、名状し難い苦悩と無力――。
そうだ、ひとは極限状態の持続の中で真の自我に目覚める。だが、つぶさに検証すると眼の眩む多様さであった。自らの視点が全てに通用する訳ではない。
更なる緻密な検証が要求された。
俺は言葉を原初に辿った。心魂から霊へ――。
ああ、あまたの魂は霊界の入口の門前でのたうっていた。彼らは地上の同胞への同情ゆえに倒れたのである。
自称神秘家共は所詮現実逃避から自己の幻想に呪縛されている。世の思想家共は知的錯乱を受け入れては生存を憎んでいる。矜持もなければ探求する度胸も無い。惰眠の真理をほざいている。
ああ、誰も彼もが尤もだ。だが、これはしたたかな伝道の手段だ世間知を逆手に取ることだ。過去の殉教者の先に行くために・・。今日、悪魔と呼ばれる、ルチファー、アーリマンの双方のうち後者の力は猛威を奪っている。物神思想がそれである。だが、この事情は誰もが耳を塞ぐ。地上の習慣は細胞の隅々まで染み込んでいる。
ああ、俺は埒もないことを言っている。外道の言葉とは言うまい。
だが、語るべき言葉は同じ言葉なのだ。パンはパンである。飯は飯である。金は金である。
ああ、言葉、言葉、言葉、……。
俺の情熱は奥に、中心に潜む、マグマの如く。
俺は今如何ともし難い光景を前に佇んでいる。自己の無力を痛感しつつ、灼熱する忍耐の鎧を着て、……風景と化している。
二〇〇〇年一月六日