掌の小説 (新潮文庫)川端康成著
掌の小説 (新潮文庫)川端康成著
川端康成の世界観がスケッチ風の短編に凝縮されている。 彼のあらゆる心的状態、観点が簡潔に書かれて長編と比べても引けを取らない。 三島由紀夫が「永遠の旅人」と評したように言葉が虚無空間の中で煌めき、漂う。 彼を知るには格好の表現形式である。
私が川端康成の事を他者に説明する時に「鋭い刃物で空間を切れば、空間から血がしたたる」と、語る。 透明な空間に溶解した意識は空間に漂うだけで目的を持たない。 故に、誰にでも分かるような文章で表現可能なのである。 小林秀雄は彼の実体を見抜いていて「彼の表現はメルヘンで、人物をかき分けることは出来ぬ」と言った。 所謂、無常観を備えているという事である。