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【読書感想文】この本を盗む者は

この本の世界に入ってみたい


そんな事を一度でも考えたことのある活字中毒者に贈る



あらすじ


 書物の蒐集家を曾祖父に持つ高校生の深冬。父は巨大な書庫「御倉館」の管理人を務めるが、深冬は本が好きではない。ある日、御倉館から蔵書が盗まれ、父の代わりに館を訪れていた深冬は残されたメッセージを目にする。
“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる”
本の呪いブックカースが発動し、読長町は侵食されるように物語の世界に姿を変えていく。泥棒を捕まえない限り、世界が元に戻らないと知った深冬は、私立探偵が拳銃を手に陰謀に挑む話や、銀色の巨大な獣を巡る話など、様々な本の世界を冒険していく。やがて彼女自身にも変化が訪れて――。 ーKADOKAWA文芸WEBマガジン カドブン引用ー


本は誰がためのものか

主人公深冬の曾祖父の嘉市は、蔵書を他者に読んでもらうために“御倉館”を地域に解放していた。


しかし、祖母にあたるたまきは、蔵書はコレクションであり、自分の蔵書が誰かに触られることを嫌がり、街の住民にもあまり心を開かなかった。


御倉館には貴重な蔵書が保管されており、たまきが言う通りに、高値で売ろうと盗みを働く者もいるのかも知れない。


しかし、個人的には本は人に読まれてこそ本ではないだろうか。


絵本のように、何度も繰り替えし読まれてこそ、その本には価値がある。


本とは、作った人達と読む人達のためにあり、様々な人に愛されてこそ、一冊の本が育つのではないのだろうか。


周りを疑いながら生活していたたまきは、きっと息苦しかったに違いない。


そう思うと、たまき自身が、御倉館の呪縛に囚われていたのかも知れない。


主人公深冬について

この本の主人公深冬は、祖母たまきの“あんたは御倉の子なんだからね”の言葉の呪縛にかかり、本が好きになれなかった。


毛嫌いしているほどだ。

深冬はどこまでも現実主義だ。最初の頃は、御倉館の本は全部売ってしまえばよいと考えているほどに。


『しょうがないでしょ。元々嫌いだし、こんな変なことに巻き込まれて、どうやって本を好きになれっての。想像力なんて貧困な方がいいよ。家で普通にテレビを見て、普通に携帯をいじって、普通に学校にいく。それが一番無難だし安全な生き方』                        ー第三話 幻想と蒸気の靄に包まれる P.214引用ー

 まぁ、なんとも現代っ子が言いそうなセリフだ。


すべての情報が受け身で自分で考えることを放棄しており、それを自覚していても、周りと合わせるためにもそのままで良いと考えている。


また、祖母への恐怖心に囚われるうちに、自分自身で『本が嫌い』と呪いをかけてしまっているようにも感じる。


それでも、本の世界で冒険するうちに、自分自身で考え行動し、怒ったり、寂しがったり、悲しんだりと様々な人間らしい表情が見えてくる。


ほかの本でも主人公が本の世界に入り込む話はあるが、その本の中の主人公と一緒に、旅をしたり冒険したりと主人公と本の主人公が助け合って成長していく話が多い気がする。


しかし、今作は本の主人公の優柔不断さに業を煮やし、深冬が指揮をとったりと、それはもうぐいぐいと深冬がその本の結末を時には無視して、引っ張ってしまうのだ。


そのうちに、深冬のなかに“まだこの話の続きを読みたい、続きをしりたい”と本に対する愛情が芽生えてくる。


きっと、深冬から本の楽しみを盗んでいた者は、深冬自身だったのかも知れない。


誰が本を盗んだか        

この本の話は、御倉館から本が盗まれたことから話が始まり、本が盗まれる度に、深冬は本の世界に巻き込まれてしまう。


その世界での盗まれた本と、本泥棒を探すために、相棒の真白と一緒に、

悪戦苦闘するのだ。


現実世界と本の世界、二つの世界が混じりあっていく。


本の世界はファンタジーの世界でもあるが、二人は魔法や特別な能力で解決するわけではない。


まさに、悪戦苦闘しながら解決し、そしてその中で真白との友情や信頼が芽生えていく。


本の世界であっても、苦難を乗り越えながら、本の世界、現実の世界の両方で本を盗んだ人を探し始める。その結末は読んだ方のお楽しみだ。


まとめ

この話は、少女の成長物語ではあるが、冒険の中での成長物語だけではなく、自分の呪縛からの解放されるまでの話である。


誰しも、自分に対し呪縛をかけ、自分の行動を抑制している部分があり、それを破るのは自分しかいないのではないだろうか。


そうやって、自分を鼓舞してくれる一冊である。


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