変化と刺激の2023年を振り返る
私にとっての2023年という1年をまず一言で表すならば
「刺激的だったけれど、もう一度繰り返したくはない年」
となるだろうか。
1年の頭からあった出来事を列挙すれば、修士論文の執筆、大学院の卒業、引越し、新社会人のスタート、それから趣味でやっているオーケストラの練習と本番、さまざまな人たちとの出会い、友達との交流、恋愛面での悩み、日常的な読書……
これらの経験を通して、「大きく変わったなあ」と思うことと、「どんなに環境が変わってもこれは変わらないな」とあらためて感じることがはっきりあった1年だった。
いろいろあった年だけど、ここでは3つのトピックを取り上げて今年の振り返りとしようと思う。
1.大学院修了
2023年1月は修士論文の提出と学会発表の準備で、とても正月気分を味わえたものではなかった。
1月6日の提出期限に間に合わせるために、帰省も大みそかの夜から1月2日の昼までという短期で済ませ、3が日も終わらぬ間に研究室に駆け込み最後の仕上げを行っていた。
私の研究対象はざっくり言えば「神話」であり、興味の発端は高校時代までさかのぼる。
私がなぜ神話研究の道に進むことになったかということについてはまた別の機会に書ければと思っているが、何はともあれ高校1年生から大学院の修士2年という実に9年間(!)にもわたる学問的興味にこの修士論文がひとまずの区切りをつけるのだと思うと、非常に感慨深かったのを覚えている。
1月初旬の修論提出、2月の学会発表、そして3月の修了式。
ここで私の学生生活は幕を閉じたわけであるが、いまだにアカデミズムの裾に食いつこうとしつづけてているのも事実である。
大学院でお世話になった教授に勧められるまま、11月には研究雑誌に掲載するための論文を1本書き上げた。
書き上げたといっても修士論文の文字量と構成に調整を加えただけで特段の新規性はないようなものであるが、社会人として働く傍らでも論文の形をとった文章を完成させられたことは自信につながった。
今でも研究テーマに近しい出来事を目にしたりふと気になることが出てきたりすると、手持ちの学術書を引っ張り出してきたり論文検索サイトで参考になりそうな論文を探したりしている。
研究の道に進むために大学に戻ることも在野研究者としての覚悟を決めることも一言では尽くしがたいほど至難の業であることは認識しているものの、研究にもう一度携わりたいという思いは今でも抱き続けている。
2.社会人生活のスタート
そんな学問への後ろ髪引かれる感情を胸に秘めている自分であるが、4月には社会人としてのデビューを飾っている。
社会人1年目のご多分に漏れず、「社会人がこんなに自分の時間がないと思わなかった」と嘆き、慣れない仕事にストレスを感じることもあるものの、会社の人間関係や社内環境が良好なこともあり比較的満足した生活を送れているといってよいだろう。
だが何も順風満帆な日々を会社で過ごしていたわけでもなかった。
入社1日目で私に言い渡された配属は「営業」で、まあ正直最初から自分に適性があるとは感じられなかったものの、やるからには走り抜こうと思った。
で、走って、走って、走るのがしんどくなって、一歩足を動かすたびに立ちすくみ勝手に涙が流れるような時が訪れた。
見せかけのゴールだけがある滑車を永遠に回されているような感覚に、閉塞感と疲弊感が募っていった。
あのときのことを振り返ると、何か現代経済を成り立たせるシステムそのものに欠陥があるのではないかとひたすら資本主義に関する本を探して読み、自身の労働で他者に与えられる幸福とはいったい何なのかと考えており、よくわからないが病的な思考に陥っていたように思う。
幸いにも私の様子がどこかおかしいことに気付いた上司が面談の時間をとって、すぐに異動を掛け合ってくれたおかげで、違う場所に配属されることになった。
そしてそうなることによって初めて「息のしやすい仕事」というのがあるんだなと気づくことができた。
今でも仕事一般に関する悩みや苦労を感じることはあるものの、あのとき抱いていたような絶望を伴う窮屈な感情に悩まされることはなくなった。
不甲斐なさがないといえば嘘にはなろうが、仕事には適正があるのだということを理解し、自分ができない仕事に活き活きと取り組めている人への尊敬を強く感じられるようになったのはこの1件のおかげであった。
ひと昔前に流行った言葉で「置かれた場所で咲きなさい」というフレーズがあったと思うが、置かれた場所で咲く努力をする一方で、自分がもっとも綺麗に花を咲かせられる環境がどこにあるのかを見極め、ときには違う場所に移るという選択をする必要もあるのであろう。
3.「本が好き」というアイデンティティ
2023年の頭から、読書記録をつけはじめた。
子どものころから本を読むことが好きだったが図書館などで借りることも多く手元に昔読んだ本がそこまで残っていないことや、本の趣味が合うと思えるような人やコミュニティと知り合いたかったことなどが、始める動機であった。
記録用のアプリ(「読書メーター」というものを主に使っている)に読んだ本を登録し、年の初めに作ったTwitter(X)アカウントに読んだ本と簡単な感想を毎回書いて投稿した。
これを続けて1年間。
読んだ本は109冊にのぼり、「自分って意外と本を読んでいたし、ちゃんと本が好きだったんだな」ということに気付かされた。
それによって、「本」というものを自分のコミュニケーションツールとして活用することができた年にもなった。
会社の先輩や初対面の人とも、本を読むという共通項を見つけられれば最近読んだ本や好きな作家の話で盛り上がれたし、数年来の友人に自分が好きな本を紹介した際には興味を持ってくれて後日感想文をLINEで送ってくれたり直接語ったりすることが幾度もあった。
本を読むということが自分にとってはある種当たり前の行為と化していたからこそ、これらの気づきと経験は新鮮でとても楽しいものだった。
自分の"好き"をこれからも、強固に、それでいて気ままに持ち続けたいと思う。