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多羽(オオバ)くんへの手紙

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生涯青春病が書き散らかしています
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#どこかのだれに

多羽(オオバ)くんへの手紙 ─12─

セーラー服の袖に腕を通す3回目の春。 真っ新でもなく スカートのお尻や上服の背中がこすれて少し光っていたりするけれど クリーニング帰りのパリッとした相棒が 「また1年付き合ってやるよ」と言っている。 肩先にヒラリと落ちて来た桜の花びらを 少し眺めてフッと吹いた。 ひらひら、ゆらゆらと風に舞ってどこかへ飛んでいく。 のんびりと正門をくぐると、クラス編成の貼り出してある窓の辺りが 生徒たちでごった返していた。 窓の外側に貼り出されている「○年○組 担任:○○」とそのクラス

多羽(オオバ)くんへの手紙 ─13─

その日の食卓は最初から不穏な空気が流れていた。 珍しく早く帰宅した父も一緒の夕飯。 何かの引っ掛かりで父と母が言い争いになった。    私がそんな言い方何時した?    したやないか。ネチネチと。 始まりは本当に些細なくだらないことだっただろう。  静かな海が次第に荒れて来て 小さかった波が大きくなって海鳴リ出す。 不安気な顔付きの伊織と賀子は箸が進んでいない。 私は平静を装い無言で食事を続けた。    「何やのよ!」 母の甲高い声と同時にほうれん草のよそわれ

多羽(オオバ)くんへの手紙 ─14─

新学年の始まりは、たいてい50音順の座席だ。 まずは隣の席、近くの席。同じ班。 そうやって徐々にクラスが出来上がっていく。 多羽の席は私の前方対角線上にあった。 私は教室の後ろ扉から近い席。 汗だくの多羽が席に着く。 始業前にグラウンドでサッカーをするために 野球部の多羽は奇特にも毎朝早くに登校していた。 朝起きるのがやっとの私とは真逆のタイプだ。 汗だくの背中に張り付いたカッターシャツ。 下敷きでパタパタと煽ぐ少し猫背の背中を見る。 私の朝のルーティン。 ─ 後に開

多羽(オオバ)くんへの手紙 ─15─

翌朝、黒板に教室の間取り図のようなものが貼ってあった。 教卓、後ろの物入れ、前と後の扉。 座席には青と赤の数字が隣同士で振ってある。 「おはようさん。みんなー、席着いてー。」 箱を2つ抱えた野口先生が入ってきた。 「この箱の中に番号書いた紙が入ってるからみんな1枚引いてな。こっちの箱は男子。青い数字で書いてるからな。こっちは女子。赤で書いてる。黒板に貼ってる紙に赤と青の数字あるやろ。そこへ移動するように。1限目何や?え?国語か。木本先生やな。先生には言うとくから、速やかに

多羽(オオバ)くんへの手紙 ─16─

学年の最初というのは煩わしい決め事が何かと多い。 そのうちの一つが「委員決め」だ。 学級委員、図書委員などはまだ普通だが中には「こんなもの必要なんだろうか」と思われる委員もある。 一学期だけで良かったり、通年で務めなければならなかったり様々だ。 一年間何の委員にもならないのは至難の業だったが、私はなるべくそこを目指していた。 「ほなまず学級委員決めよか。ここだけ先生がやるから、後の司会は学級委員頼むわな。」 野口先生の最初だけ仕切る上手いやり方だ。 「学級委員やりたい人ー

多羽(オオバ)くんへの手紙 ─17─

「他に体育委員やりたい人いませんかぁ。いてないんやったら多羽くんと羽田さんで決まりです。」 他の生徒が挙手する隙を与えない、成り立て学級委員お鈴の援護射撃で、私と多羽は体育委員となった。 ✳✳✳ 「委員の集まりってダルいよなぁ。」 まだ特に何の仕事もしていない学級委員のお鈴がぼやいた。 1ヶ月に1度、授業が終わってから各学年の同じ委員が集まる会があり、お鈴が言うのはそのことだった。 「ま、ミスミンはいいよな。」 「お鈴も仲良しの戸澤やからええやん。」 「コザっちが

多羽(オオバ)くんへの手紙 ─18─

勉強はわりと出来たほう。 無い物ねだりだと思われるだろうが、 本当は運動がよく出来たり 手先が器用で物を上手く作れるような そんな人に私はなりたかった。 ✳✳✳ 「水澄、賀子の宿題見たって。」 夕飯の支度中の母に頼まれた。 母は「勉強の出来る私」よりも、あまり勉強は出来ないが可愛げのある賀子を可愛がっていたように思う。 母にとって「勉強の出来る私」だけに価値がある。 その頃の私はそんな風に感じていた。 「賀子、どれが分からんのん?こっちはわかるん?」 賀子は人の世話

多羽(オオバ)くんへの手紙 ─19─

毎年2学期に行われる球技大会が今年から1学期に行われる。 2学期は何かと行事が多いからなのだろう。 月1委員会で当日の作業が割り振られた。 男子はサッカーかバスケット、女子はバレーボールかバスケットのどちらかには必ず参加する決まりで、可能であれば両方参加することも出来た。 「多羽はどっちも出るんやろ?」 「いや、サッカーだけ。バスケは苦手やねん。」 スポーツ万能だと思っていたのに意外だった。 「なんで?」 「バスケはちょっと当たっただけですぐ反則なるやろ?あれがいやや